NIL問題と最高裁の判断④

2020年12月16日、連邦最高裁判所は「アルストン訴訟」を審議することを発表した。

最高裁がカレッジスポーツの反トラスト法に関する訴訟を扱うのは1984年以来となる。

この訴訟自体はNIL問題とは関係ないが、最高裁の判決がNIL問題に及ぼす影響も否定できない。

専門家のベアード・フォゲル氏は「最高裁の判決はアマチュアスポーツに大きな影響を及ぼすでしょう。NCAAと各大学のビジネスモデル全体にもインパクトがあるはずです」は言う。

ボイシ州立大学のサム・エーリック教授は、もしNCAAの主張が認められればここまで進展してきたNIL規則改定が振り出しに戻る可能性が出ると話す。

注目の判決は今年6月に下される。

参考文献:
https://www.washingtonpost.com/politics/courts_law/supreme-courtncaa/2020/12/16/90f20dbc-3fa9-11eb-8db8-395dedaaa036_story.html
https://www.washingtonpost.com/sports/2020/12/31/ncaa-supreme-court-compensation/
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2021/02/08/Law-and-Politics/NCAA-Supreme-Court.aspx

NIL問題と最高裁の判断③

ウエストバージニア大学時代のショーン・アルストン氏

2014年に元カレッジフットボール選手のショーン・アルストン氏が起こした、いわゆる「アルストン訴訟」では、学生アスリートが大学から受け取ることのできる便益が争点となった。

それまでNCAAが認めていたのは奨学金とその他の受講料のみ。

これに関して原告側は「NCAAの規則は独占禁止法に違反している。どのような便益を学生アスリートに与えるかは各大学が自由に決定できるはずだ」と主張した。

2019年3月、カリフォルニア州の地方裁判所は、原告側の主張を概ね支持。

学生アスリートに与えられる便益を大学教育に関係する品々(コンピューター、科学器具、楽器など)まで拡大するべきという判決を下した。

NCAAはこの判決を不服として控訴したが、2020年5月、控訴審が第一審の判決を支持した。

ここまではオバノン訴訟と同じ流れだが、違うのはここから。

控訴審の判決にも納得のいかないNCAAが上告をしたところ、最高裁がこれを審議すると発表したのである。

オバノン訴訟ではNCAAの上告を棄却した最高裁が、なぜ今回は受け入れたのか。そこにはどのような意図があるのだろうか。

つづく。

参考文献:
https://www.si.com/college/2018/09/04/alston-v-ncaa-trial-news-updates-ncaa-cost-attendance
https://www.espn.com/college-sports/story/_/id/29191519/appeals-court-upholds-ruling-colleges-pay-all-ncaa-athletes-education-expenses

NIL問題と最高裁の判断②

カレッジスポーツのNIL問題が大きな注目を浴びるきっかけとなったのが、エド・オバノン氏が2009年に起こした訴訟である。

この訴訟で問題となったのが、NCAAによる学生アスリートの名前・肖像の商用利用(ビデオゲーム制作など)であった。

「NCAAは選手の名前・肖像を使って収益を上げていながら、それを一切選手に還元していない。これは反トラスト法・独占法違反だ」というのが原告の訴えである。

2014年、カリフォルニア州の地方裁判所は原告の訴えを認めた。その後NCAAは控訴・上告したが、最後まで判決が変わることはなかった。

このオバノン訴訟を契機に、NCAAの規則に関する訴訟が続いた。

その代表的なものがショーン・アルストン氏の起こした訴訟で、こちらもカリフォルニア州の地方裁判所が舞台となった。

そしてこの「アルストン訴訟」こそ、現在アメリカスポーツ業界で話題となっている訴訟なのである。

つづく。

参考文献:
https://www.lexisnexis.com/community/casebrief/p/casebrief-o-bannon-v-ncaa
https://www.washingtonpost.com/politics/courts_law/supreme-courtncaa/2020/12/16/90f20dbc-3fa9-11eb-8db8-395dedaaa036_story.html

NIL問題と最高裁の判断①

ここ数年のアメリカスポーツ業界で最もホットなトピックの一つが「学生アスリートが自らの名前や肖像権を使用して収入を得ることは認められるべきか」という問題である。

ちなみに、この問題はName(名前)、Image(イメージ)、Likeness(肖像)の頭文字をとって「NIL問題」と呼ばれることがある。

現在、この問題に関連する重要な裁判が連邦最高裁で行われているのだが、その内容が大きな注目を集めている。

その重要性と今後の流れを理解するために、今週はこのトピックを掘り下げていきたい。今日は、ここまでの簡単なおさらいをする。

・NCAAはアマチュアリズムの精神に基づき、学生アスリートが給与を受け取ることを禁止してきた。
・カレッジスポーツが巨大なビジネスとなり、NCAAが毎年何十億ドルという収入を上げている一方、それが一切選手に還元されないことに疑問や批判の声が集まり始めた。

・2019年9月、カリフォルニア州が「カリフォルニア州の大学に通う学生アスリートは、企業とスポンサー契約を結び、収益を上げる権利が認められる」という州法を成立させた。
・フロリダ州やイリノイ州などの州議会、さらには合衆国議会でもカリフォルニア州と同様の法案が審議され始めた。
・これを受け、2019年10月、NCAAは学生アスリートのスポンサー契約を解禁する方針を発表した。
・現在NCAAは新規約の内容を議論している。

次回の投稿では、現在注目を集めている裁判について解説する。

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2021/02/08/Law-and-Politics/NCAA-Supreme-Court.aspx

EA Sports、カレッジフットボールのゲーム制作を再開

今週火曜日、大手ゲーム制作会社のEA Sportsは、2013年を最後に制作を休止していたカレッジフットボールのゲーム制作を再開することを明らかにした。

カレッジフットボールはEA Sportsが制作するゲームのなかでも人気の高いコンテンツであったが、2013年にNCAAおよび複数のカンファレンスがライセンス契約の更新を断り、ゲーム制作が止まっていた。

それらの団体が今回改めてEA Sportsとライセンス契約を結ぶ目途が立ち、カンファレンスの名前やロゴが使用可能になったことで、ゲーム制作が再始動した。

テレビゲームといえば、以前EA Sportsは学生アスリートの名前・肖像権を使用していたことで訴訟の対象となったが、新作ゲームには実在する学生アスリートは使用されない予定である。

一方で、NCAAは近く学生アスリートの名前・肖像権に関する規則を変更する予定である。

学生アスリートがゲーム会社と契約を結び収入を得ることが認められれば、EA Sportsが制作するカレッジフットボールゲームに実際の選手の名前や顔が登場することもあり得る。

なお、発売日などの詳細は一切未定である。

参考文献:
https://www.espn.com/college-football/story//id/30821045/school-plan-ea-sports-do-college-football https://www.espn.com/college-football/story//id/30820886/everything-need-know-return-ea-sports-college-football-video-game

マーチ・マッドネス、全試合をインディアナポリスで開催か

GETTY IMAGES

NCAAが男子バスケットボールの全米トーナメント(通称「マーチ・マッドネス」)の全試合をインディアナポリスで開催することを検討していることが明らかになった。

当初の予定では全米13都市で試合を行う予定だったが、コロナウイルス感染防止のために全試合を一か所で開催する可能性が出てきた。

試合会場、練習場、宿泊施設、医療施設などをすべて一か所に集めることになるが、これはNBAがすでに前例をつくっている。

また、試合日程には変更がないので、試合中継(および放映権契約)にも深刻な影響はないだろう。

しかし、マーチ・マッドネスならではの問題もある。

たとえば、プロスポーツと違い、カレッジスポーツは選手が学生であり、授業に出席する必要がある。

現在はオンライン授業も多く提供されているが、1月から始まる新学期では対面授業を再開する大学も多い。

例年であれば、試合の合間に少しでも大学に戻って授業に参加できたが、宿泊施設から自由に出られなくなれば、トーナメント中すべての授業を欠席することになる。

学業との両立を謳っているNCAAとしては頭を悩ませるところだろう。

しかし、昨年マーチ・マッドネスを中止にしたことで莫大な損失を被ったNCAAとしては、2年連続の中止は避けたいところ。

最終的にどのような形での開催になるのか、注目である。

ちなみに、レギュラーシーズンは来週開幕する予定である。

参考文献:
https://www.sportspromedia.com/news/ncaa-march-madness-2021-indianapolis-host-college-basketball-covid-19

学生アスリートの肖像権ビジネス、契約管理、そして新会社

以前の投稿で解説した通り、NCAAは学生アスリートが自らの名前や肖像権(俗にNILと呼ぶ)を活用して収益を上げることを許可した。

禁止事項を含む細かなNIL規約はNCAAが現在作成しているが、正式に解禁された暁には、各大学に何かしらの報告義務が生まれる。

つまり「A選手がB社と〇年××ドルのエンドースメント契約を結びました」といった報告が大学側からNCAAにされるということである。

仮に大学が報告を怠ればそれは罰則の対象となりかねない。しかし、全学生アスリートの契約管理は骨が折れる作業になる。

そこでUber幹部のライル・アダムス氏は、今年4月Spryという企業を立ち上げ、学生アスリートの契約を簡単に管理できるシステムを開発した。

このシステムは、各学生の契約を整理するだけでなく、NCAAの規則違反が疑われる契約を特定したり、契約内容がアスリートの価値に見合っているかを判定したり、確定申告に役立つ情報を提供したりもできるという。

アメリカには約46万人の学生アスリートがおり、アダム氏はその50~60%がなんらかのビジネス契約を結ぶだろうと予測している。これは大きなビジネスチャンスである。

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2020/10/12/Colleges/Spry.aspx

民主党議員、学生アスリートの補償に関する法案を作成中

先週、複数の民主党議員が学生アスリートに関する連邦法を作成していることがわかった。

この法案は「College Athletes Bill of Rights(大学アスリートの権利に関する法律案)」と呼ばれ、学生アスリートが「公平かつ公正な補償」を受け取れるようにすることを目的としている。

スポーツ関係のケガや病気に対する医療保険や、自由に転校する権利(現行の規則では、別の大学に移ると一定期間公式戦に出場できないことがある)、そして自らの肖像権を活用して(スポンサー契約やグッズ販売など)収益を上げる権利などが「公平かつ公正な補償」に含まれる。

肖像権を用いたビジネス権に関しては、すでにカリフォルニア州フロリダ州など複数の州がそれぞれ州法を成立させることでこれを認めているが、今回作成されているのは連邦法である。つまり、大学がある州に拘わらず、全国の学生アスリートにこの権利が保障される可能性があるということである。

さらに、この法案には、大学スポーツの運営組織(NCAA、カンファレンス、体育局など)と学生アスリートとの間で「revenue-sharing(収入分配)」を行うという内容も含まれるという。

これは重大な内容である。

ここで言う「収入分配」が具体的に何を指すのかは現時点では不明瞭だが、大学が学生に給与を支払うことを意味する可能性もある。

そうなれば、学生アスリートに与えられる報酬は飛躍的に伸びるが、タイトルナインとの兼ね合いなど複雑な問題も発生する。

なお、法案の審議は来年初めに行われる見通しである。現時点では、共和党議員からの支持は得られておらず、この法案が成立しない可能性も大きいと言う。

参考文献:
https://www.sportspromedia.com/news/ncaa-college-athlete-bill-commercial-rights

カレッジスポーツ、新シーズンに向けて各カンファレンスが方針示す

今週水曜日、アイビー・リーグは秋学期(9~12月)に予定されていたスポーツイベントを全て中止することを発表した。コロナウイルスの感染拡大が原因である。

アイビー・リーグに所属する8校はそれぞれキャンパス利用規則(教室や学生寮、食堂といった大学施設の利用規則)を最近発表したが、同カンファレンスがその内容を精査した結果、年内の試合開催は不可能だと判断した。

この決定に関してアイビー・リーグのロビン・ハリス氏は「私たちの場合はキャンパス利用規則が決め手となりましたが、他の大学、他のカンファレンスでは状況が異なるかもしれません」と言う。

その翌日、ビッグ・テン・カンファレンスは、他カンファレンスの大学との試合を全て中止する一方、カンファレンス内の試合は予定通り行う方針を発表した。

同カンファレンスによれば、他カンファレンスの大学との試合をなくすことによって、選手の移動や健康管理がよりシンプルになり、コロナウイルスの感染状況や行政の基準が変わった際に、柔軟かつ迅速に対応することができるという。

秋学期はアメリカンフットボールのシーズンであり、シーズン開催の可否は各大学体育局の収益を大きく左右する。

今後、他の人気カンファレンスがどのような決定をするのか、注目である。

参考文献:
https://www.espn.com/college-sports/story//id/29430262/ivy-league-rules-playing-all-sports-fall-due-coronavirus-pandemic https://www.espn.com/college-football/story//id/29435295/source-big-ten-moving-conference-only-model-all-sports-fall

NCAA、新規約の草案

今週火曜日、NCAAは役員会議を開き、学生アスリートのエンドースメント契約に関する新規約を話し合った。

NCAAは昨年10月から特別委員が新規約の草案の作成に取り組んできたが、今回それが関係者に共有された。

報道によって明らかになった内容は以下の通り。ちなみにこれらは提案で、決定項ではない。

・学生アスリートは、自らの名前や肖像権を使ったアパレル(「○○モデルウェア」など)を製作して収入を得ることができる。ただし、大学の名前やロゴ、その他のマークが入ってはいけない。

・学生アスリートは、企業の広告活動に参加することで収入を得ることができる。ただし、大学の名前に言及したり、大学のロゴやマークを表示したりしてはいけない。

・ギャンブルなど、NCAAが禁止している商品の広告活動には参加できない。また、各大学が独自に禁止事項を加えることが認められる。

・学生アスリートは、エンドースメント契約などのビジネス活動を円滑に行うために代理人を雇うことができる。ただし、代理人は選手が大学在学中に、プロ転身後のビジネスについて交渉してはならない。

・学生アスリートは、すべてのエンドースメント契約をそれぞれの体育局に報告する義務がある。

今後、NCAAの関係者は数ヶ月かけてこの内容を吟味し、最終的な投票を行うことになっている。

参考文献:
https://www.espn.com/college-sports/story/_/id/29109389/source-ncaa-group-propose-possible-changes-allow-athlete-endorsements