ESPN+のUFC中継、大成功

2018年5月、ESPNは総合格闘技のUFCと5年間の放映権契約を結んだ。UFCはそれまでFox Sportsと契約しており、ESPNは最大の競合であるFox Sportsから一つコンテンツを奪った形になる。

この契約で、ESPNは年間42試合を中継する権利を得たが、そのうち20試合はESPN+で中継されることとなった。

そして迎えた2019年1月19日、ESPN+で中継される第一試合が開催された。そしてこれが予想以上の成功を収めた。

UFCのオーナーであるEndeavor社のMark Shapiro会長は「当初我々は大きく見積もって30万人ほどがESPN+に登録すると考えていた」と言う。しかし実際にESPN+が記録した新規登録者数は52万5000人。ほぼ2倍である。

ESPNはこの機会を逃さない。
会場となったバークレイズ・センターには、いたるところにESPN+のロゴが表示され、観客にはESPN+Tシャツが配布された。

会場の外では、ファン・フェスタが催され、ファンがパンチ力を測定するブースや、ファンがファイターになったかのような入場ビデオを作成するブースなどが設置された。

会場外のファンへのコミュニケーションも抜かりない。
ESPN+の携帯アプリからは試合情報が随時提供され、テレビでESPNを見ている人にも、試合の宣伝とともにESPN+の登録の仕方が伝えられた。

ESPNのConnor Schell氏は「我々が持つすべてのものが同じ方向に向かって進んでいるようで素晴らしかった。綿密な計画の賜物だ。途切れることなく、スムーズにたくさんのファンを誘導できた」と熱弁する。

前出のShapiro氏は「我々は『魚のいるところで釣りをしている』だけだ。ESPNこそ『スポーツファンの住む場所』だ。Fox Sportsも時折そこからファンを引っ張ってくることはあるだろうが、結局スポーツファンが帰る場所はESPNなんだ」と語った。

参考文献:
https://www.usatoday.com/story/sports/mma/2018/05/08/espn-ufc-agreement-new-streaming-service-espn/589968002/
https://www.usatoday.com/story/sports/ufc/2018/05/23/espn-ufc-television-rights-deal/635801002/
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2019/01/28/Media/Sports-media.aspx

ESPN2、ナンバー2陥落

2018年のスポーツ局の視聴率ランキングが発表された。これによれば、ESPNの姉妹局であるESPN2が、25年間守ってきたナンバー2の座を初めて明け渡した。

上の表からわかる通り、不動の一位はESPN。次に、NBC Sports(NBCSN)そしてFox Sports1(FS1)が続く。ESPN2は4位まで順位を落とした。

NBCSNは平昌オリンピックの放送が大きく影響した。同局が2018年に放送したスポーツの中で最も視聴された20のコンテンツのうち13はオリンピック関係のものであった。

NBC Broadcasting and SportsのチェアマンMark Lazarus氏はこう指摘する。
「オリンピックは間違いなく好影響を与えた。しかし我々がオリンピックを放送するのはこれが4回目だ。NHL、NASCAR、そしてイングランド・プレミアリーグといったコンテンツもまた我々の成長に貢献したのである」。

FS1に関しては、FIFAワールドカップ、カレッジフットボール、そしてMLBのプレーオフといったコンテンツが同局の視聴率を押し上げた。

また、NBCが保有するGolf Channelが同局の視聴率記録を更新し(平均視聴者数:113,000人/日)、MLB Networkを抜いた。

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/12/10/Media/Sports-media.aspx

ヤンキースとYES Network①

2018年末、ニューヨーク・ヤンキースがYES Networkというテレビ局を買収する(かもしれない)と報道された。日本のメディアはあまり触れていないが、この動きの裏にはDisneyがいる。

以前の投稿で解説した通り、DisneyはESPNやBAMTechを子会社に持ち、北米スポーツメディア業界で大きな存在である。そのDisneyは2018年7月、713億ドルで21st Century Fox(21世紀フォックス)を買収した。21st Century Foxは、映画会社・映画スタジオの20th Century Fox(20世紀フォックス)の親会社として広く知られているが、その他にも、スポーツの地方中継を行う地方スポーツネット(Regional Sports Network; RSN)を22局保有していた。

つまりDisneyによる21st Century Foxの買収は「映画会社による映画会社の買収」ではなく「巨大メディアによる巨大メディアの買収」を意味するのである(ちなみに、スポーツの全国放送を行い、ESPNの競合であるFox Sportsは買収の対象外である)。

しかし、スポーツメディア業界最大手のDisneyが業界4位の21st Century Foxを買収することで、公正な競争状態が損なわれる恐れがあった。そこでアメリカ合衆国司法省は、買収の条件として「22局のRSNを売却すること」を挙げた。そして、この22局の中に、今回話題になっているYES Networkが含まれていたのである。

「ヤンキースがテレビ局を買収」という見出しを見て、日本テレビやフジテレビのような全国放送を行うテレビ局をヤンキースが買収すると勘違いをした人もいるかもしれないが、実際は「スポーツの地方中継を行うYES Networkが、Disneyによる21st Century Fox買収のために売却されるため、ヤンキースがその買収を検討している」というのが正しい見方である。

では、なぜヤンキースがYES Networkの買収を検討しているのか。それはまた次回。

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2017/12/18/Media/Disney-Fox.aspx
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/11/12/Media/RSNs.aspx
https://www.wsj.com/articles/yankees-in-talks-with-amazon-sinclair-to-bid-for-yes-sports-network-11545993000

スポーツ中継の動向⑧ ESPN+

2018年4月、DisneyによるBAMTechの買収から一年弱、ESPNが満を持して、ネット中継プラットフォーム「ESPN+」を立ち上げた。

そのコンテンツは、MLB、MLS、PGA Tour。そして注目すべきは(前回説明した通り)NHLである。

カレッジスポーツも中継される。カレッジスポーツは、地域によっていくつものカンファレンスがあるが、人気カンファレンスの試合はESPNでテレビ中継される一方、人気の劣る小・中規模カンファレンスの試合はESPN+でネット中継される。

さらに、海外スポーツコンテンツも充実している。たとえば、テニス四大大会のウィンブルドンや全豪オープン、サッカーではセリエAやFAカップが中継されている。

日本に関係のあるところでは、2018年5月に開催された井上尚弥対ジェイミー・マクドネルのWBA世界バンタム級タイトルマッチが、ESPN+で中継された。当時は「井上尚弥の試合が異例のアメリカ生中継」と報道されたので、アメリカのテレビで全国中継されるかのように感じた人もいるかもしれないが、実際はESPN+でのネット中継であった。

これらの充実したコンテンツに拘わらず、ESPN+の会費は月額5ドル。これは他のネット中継サービスと比較しても非常に安い。ケーブルテレビの料金高騰により多くの顧客を失ったESPNが、その離れた顧客を再度獲得することを意識して設定した価格と言えるだろう。

参考文献:
https://watch.espnplus.com/sports/
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/01/15/Colleges/CFP-Atlanta.aspx
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/08/13/Media/Sports-Media.aspx
https://www.nikkansports.com/battle/news/201805240000328.html

スポーツ中継の動向⑦ BAMTechとは何者か?その②

Disneyの出資を受けたBAMTechは、ヨーロッパに進出した。ヨーロッパ進出後、最初に契約を結んだのがEurosport。Eurosport は、ヨーロッパのほとんどの国でオリンピックを放映する権利を持つ企業である。

MLBの一子会社から始まったBAMTechはついにオリンピックビジネスにも関わろうとしているのである(ちなみにEurosportはウィンブルドンの放映権も所有している)。

そして、2017年8月、DisneyはBAMTechに15.8億ドルを追加出資することを発表した。これによって、Disneyが占めるBAMTechの出資金の割合は33%から75%に増加。事実上の買収である。

この買収には2つの大きな意味がある。

1つ目は、Disneyの子会社であるESPNがネット中継技術を手に入れたこと。
以前の投稿で説明したように、アメリカ社会に広まるコード・カッティングの流れの中で、ESPNは近年急速に顧客を減らしている。

収益を拡大するためには、テレビ以外のプラットフォームでもスポーツ中継をする必要があった。DisneyがBAMTechを傘下に収めたことで、DisneyはBAMTechが積み上げてきた専門性と経験を、すべてEPSNのために活用することができたのである。

2つ目は、NHLの放映権。
ESPNは、四大スポーツリーグのなかで唯一NHLのテレビ放映権を持っていない。NHLは2004年に選手がストライキを起こし、シーズンすべての試合をキャンセルした過去がある。その当時テレビ放映権をもっていたESPNはこれで大打撃を食らい、それ以降NHLとは契約を結んで来なかった。

しかし、以前の投稿で解説したように、スポーツメディア界に難攻不落の城を築きたいESPNはなんとしてもNHLの放映権もほしい。そこで目を付けたのがNHLのネット中継権を持っているBAMTechだったのである。

DisneyがBAMTechを買収したことで、ESPNはネット中継技術とNHLのネット放映権を手に入れた。では、ESPNは具体的にどのようにそれらを形にしたのか。それはまた次回。

参考文献:
http://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2016/08/15/Media/BAM-Tech.aspx
http://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2017/08/14/Leagues-and-Governing-Bodies/BAMTech.aspx

スポーツ中継の動向⑥ BAMTechとは何者か?その①

ここまではスポーツリーグ・チームのネット中継戦略を紹介してきた。ここからは視点を変えて、放映権を得てネット中継を行う側に注目したい。具体的には、DAZN、Facebook、Amazon、Twitterなどが「ネット中継を行う側」にあたるが、この業界で最も注目を集めているのはBAMTech(バムテック)という会社である。

BAMTechとは何者か?

もともとはMLBリーグ機構の一部であるMLB Advanced Mediaから生まれた組織である。MLB Advanced Mediaは、リーグのホームページであるMLB.comやネット中継のMLB.TVを管理する組織である。

このMLB Advanced Mediaという正式名称が長いため、関係者は省略して「BAM(バム)」と呼んでいる。これがBAMTechのBAMの由来である(TechはTechnologyの省略形)。

2015年、MLB Advanced Mediaはネット中継に特化した子会社としてBAMTechを設立した。BAMTechの営業内容は、ネット中継サービスの提供。つまり、MLB以外のスポーツ組織がネット中継をしたいときに、そのためのシステムを設計し、運営するのである。

2015年の設立以来、BAMTechはNHL、PGA、そしてプロレスのWWEなどとも契約を取り付け、急速に成長した。そんなBAMTechに注目し、巨額の投資をしたのがDisneyである。

日本ではあまり知られていないが、Disneyはアメリカ最大のスポーツ専門チャンネルESPNの親会社として、スポーツ業界でも大きな存在である。

そのDisneyが2016年8月、10億ドルを投資し、BAMTechの出資金の33%を一気に占めた。Disneyの狙いはBAMTechのもつネット中継技術。それを子会社であるESPNに応用しようと考えたのである。(つづく)

参考文献
http://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2016/08/15/Media/BAM-Tech.aspx
http://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2017/08/14/Leagues-and-Governing-Bodies/BAMTech.aspx

スポーツ中継の動向⑤ MLSのネット中継戦略

NFLやMLBといったメジャーリーグに比べ、MLSのような新興リーグはより画期的なネット中継戦略を打ち出す傾向がある。

たとえば2017年、FCダラスは全国放送のない試合をチームのホームページ上で中継すると発表した。このネット中継には会員登録が不要なので、すべての人が無料で試合を見ることができる。また、自チームのホームページ上で中継するので、放映権収入も発生しない。これまで紹介したどのビジネスモデルとも異なる。

この決定に関してFCダラス会長のDan Hunt氏は以下のように説明する。
「我々の目標はなるべく多くの人々の興味を引くこと。そのためにFCダラスのコンテンツをできるだけ多くのプラットフォームで提供したいんです。今回の決定も収益を見込んでのことではありません」。

ネット中継は、居住地域に関係なく様々な人にアプローチすることができる。したがって海外ファンの獲得には特に有効である。

FCダラスの場合、本拠地を置くテキサス州はメキシコに隣接している。FCダラスは、ネット中継を通じてメキシコにもファンを拡大しようとしているのかもしれない。

また、ネット中継を視聴するためにホームページを閲覧する人が増えれば、スポンサーシップ販売にも好影響がある。

2018年には、MLSの4チームがさらに画期的な決定をした。テレビの地方中継の契約を結ばず、ネットでのみ中継するというのである。

具体的には、LAFCとSeattle SoundersはYouTube TVと、Chicago FireはESPN Plusと、Real Salt LakeはKSLとそれぞれ複数年の独占放映権契約を結んだ。

以前の投稿で説明したように、北米のメジャーリーグは主に3つの放映権を販売している。①全国中継のテレビ放映権、②地方中継のテレビ放映権、そして③ネット中継の放映権である。今回のMLSチームの決定は、③を拡大するために②をあきらめることを意味する。

他のメジャーリーグと比べMLSは地方中継のテレビ放映権料があまり高くなく、このような思い切った動きができたのだが、それでも「地方テレビ中継をあきらめるのはギャンブルだ」という意見もある。

参考文献
http://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2017/03/20/Franchises/FC-Dallas.aspx
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/03/26/Media/MLS-digital.aspx
https://www.pgpf.org/blog/2018/09/income-and-wealth-in-the-united-states-an-overview-of-data

スポーツ中継の動向① 放映権収入急増の背景

PwCの調査によれば、北米スポーツチームの収入源の中で放映権収入が最も急速に成長している分野である。たとえば、過去5年間で、前年から10%以上の成長を見せているのは放映権収入だけである。そして2017年、放映権収入は初めてチケット収入を上回り、北米スポーツチームにとって最大の収入源となった。

しかしこれをもって「スポーツ中継が好調」と結論付けるのはいささか短絡的である。放映権収入がなぜ拡大しているのか、詳しく分析しなくてはならない。

まず、放映権収入というのは、スポーツリーグ・チームが放送局と契約をする際に生まれる。NBAやMLBのようなメジャーリーグの場合、全国中継と地方中継があり、全国中継の放映権はリーグが、地方中継の放映権は各チームが交渉するのが一般的である(ただしNFLは全国中継も地方中継もリーグが交渉する)。なお、リーグが獲得した放映権収入は各チームに分配される。

したがって、極端に言えば、いくら人々がスポーツを見なくなっても、放送局が大金を払えばスポーツチームに入る放映権収入は拡大し得るのである。

北米では、2000年代から自前のテレビ局をもつスポーツリーグ・チームが次々に現れた。NFLのNFL Network、大学スポーツのサウスイースタン・カンファレンスが持つSEC Network、そしてニューヨーク・ヤンキースのYES Networkなどがその例である。

こういった新規放送局は、独自のコンテンツを提供することで視聴者を引きつけ、既存の放送局にとって大きな脅威となった。同時に、限られた人気スポーツコンテンツをめぐってより多くの放送局が競争することになった。放送局が競争に勝って放映権を獲得するためには、より高い契約金をスポーツリーグ・チームに提示することが求められる。

たとえば、アメリカ最大のスポーツ専門チャンネルESPNは、2011年にNFLと8年総額150億ドル、2016年にNBAと9年総額126億ドルの契約を結んだ(NBAとの契約はTurner Sportsと共同)。

これらの大型契約に関して、一部の関係者からは「ESPNは払い過ぎだ」との声も上がった。しかしESPNのJohn Skipper氏は、2017年のインタビューで「我々は“より深い堀”を作らなくてはならない」と発言した。これは「ESPNはどんどん放映権を獲得して、スポーツメディア界に難攻不落の城を建てる」という意味である。

激化する放映権競争。これが放映権収入の急増の背景にある。

参考文献:
https://www.pwc.com/us/en/industry/entertainment-media/assets/2018-sports-outlook.pdf
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2017/06/26/Media/ESPN-main.aspx
https://www.amazon.com/Sports-Finance-Management-Entertainment-Remaking-ebook/dp/B007I7FYQI

ロボットカメラとスポーツ中継

2018年8~9月に開催されたUS Openは、ESPNが映像制作を担当し、その映像がテレビとネット上で中継された。

同大会では16のコートが使用されるが、ESPNは今回初めて、そのすべてのコートで映像制作を行った。それを可能にしたのが、ロボットカメラの存在である。

従来は、カメラマンがコートに配置され、その他多くのスタッフが制作室でカメラマンへの指示や編集等を行ってきた。今回のUS Openでも、16コートのうち7コートではこの方法が採用された。

一方で、残りの9コートの映像は、Viboxと呼ばれるロボットカメラを活用した制作方法が用いられた。Viboxの場合、必要なスタッフは2名だけ。一人がリモコンでカメラを操作し、もう一人がプロデューサー兼ディレクターとして、カメラアングルの選択やリプレイの挿入などを行う。

Viboxは従来の方法に比べ、かなり効率的に映像制作ができ、しかも映像のクオリティは従来のものに全く劣らないという。

ESPNは、2018年4月にESPN+というネット中継チャンネルを設立し、現在同チャンネル用のコンテンツ充実を図っている。Viboxの導入はそれに大いに貢献しそうである。

参考文献:https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/09/03/Media/USOpen-production.aspx