Dr. McLeodインタビュー⑦プロ・ラグビーの騒動

Q. 「プロ・ラグビーが起こした騒動」とはどのようなものだったのですか?

A. プロ・ラグビーは、当初、アメリカラグビー協会と「同リーグを唯一の認定リーグとする」という合意をしていました。

「認定リーグ」になると、そのリーグでプレーする選手がアメリカ代表の選考対象となる、ということを意味します。

逆に言えば、認定リーグでないリーグでプレーしてしまうと、どんなにいい選手であっても代表チームには入れません。

プロ・ラグビーはこの権利を独占的に保持していたため、代表チームに入りたい多くのトップ選手と契約することができたわけです。

ところが、協会はこの権利を他のリーグにも与えると示唆し、これにプロ・ラグビーが怒りました。

そして、対抗手段としてプロ・ラグビーは「所属選手との契約を切る」と言い出しました。

「大事なラグビー選手の権利を守りたいなら、我々を唯一の認定リーグにしなさい」と言うことで協会が折れることを期待したわけですね。

ところが結局状況は変わらず、プロ・ラグビーは選手との契約を打ち切り、リーグ自体も休止状態になってしまいました。

Q. では、選手は約束されていた給与を満額受け取っていないということですか?

A. そういう選手が相当数いると考えられます。

したがって「プロ・ラグビーはそもそも資金繰りに苦しんでおり、選手への給与支払いを逃れるため、協会に責任を転嫁した」と見る人もいます。残念ながら真相はわかりません。

マイナーリーグの構造改革に国会議員が待った

先日の投稿で解説した通り、現在、MLBはマイナーリーグの抜本的な構造改革を検討している。42ものチームが消滅すると言われるこの改革案に対して、マイナーリーグのオーナーを中心に大きな反発が起こっていることはすでにお伝えした通りだ。

これに加え、国会議員からも反対の声が上がった。

今週火曜日、共和党・民主党の垣根を越えて、104名の国会議員が「MLBが提案した改革案に強く反発する」という趣旨の文書を連名で発表。

文書には「仮にこの案が実行されれば、選手育成や強いファンの愛着を実現してきたマイナーリーグという仕組みの健全性が損なわれてしまう」「MLBには改革案の再考を強く勧める」と記されている。

アメリカの小さな町では、マイナーリーグが数少ないエンターテインメントとして地元住民から愛されているケースが多く、それがなくなることの精神的・経済的な影響は小さくない。そのような考えが今回の議員たちの行動に繋がったと考えられる。

なお、MLBとマイナーリーグ側は近くミーティングを予定している。また進展があり次第、お伝えします。

参考文献:
https://sports.yahoo.com/congress-urges-mlb-to-scrap-minor-league-overhaul-in-bipartisan-letter-002602003.html
https://www.theday.com/local-news/20191119/congressmen-urge-major-league-baseball-to-scrap-radical-minor-league-overhaul

井上尚弥選手、WBCのダイアモンドベルトを拒否③

昨日の投稿で、「WBCはダイアモンドベルトを贈呈することで加盟料を徴収しようとしているかもしれない」ということを書いた。

今日は、この「加盟料」というものが一体何なのかを説明したい。

まず、ボクシングの世界戦を開催するためには、会場確保や告知、放映権の交渉など様々な準備が必要になるが、これらは全てプロモーターが行う(たとえば、井上選手がこの度契約を発表したトップランク社は大手のプロモーターだ)。

こういった興行のやり繰りに、WBCやWBAといったボクシング団体は一切関与しない。対戦カードを決めるのもファイトマネーを支払うのもプロモーターだ。

では、ボクシング団体の役割は何かと言うと、「これは世界戦です」「勝者は世界チャンピオンです」と認めること。実質的な役割はかなり限られているのだ。

一方で、興行が大きな成功を収めたとしても、その収益はプロモーターの懐に入るため、ボクシング団体に直接還元されるわけではない。

そんなボクシング団体が収益を上げる方法、それが加盟料である。

世界戦の勝者が正式に世界チャンピオンとして認められるためには、その団体に一定の金額を支払うことが義務付けられている。逆に言えば、たとえ試合に勝ったとしてもこれを払わなければ世界チャンピオンとは認められない。

実際、2015年、フロイド・メイウェザー選手が20万ドル(約2000万円)の加盟料を支払わなかったため、WBOからチャンピオンベルトを剥奪されている。

したがって、ボクシング団体が収益を拡大しようと考えたときに、一番手っ取り早い方法が、世界チャンピオンを増やし、より多くのボクサーから加盟料を徴収することになる。

WBCが「ダイアモンドベルト」のようなチャンピオンベルトを創設した裏には、そういった意図があるのではないかと一部ボクシングファンは考えているのだ。

歴史的な一戦に勝利した井上選手に、半ば勝手にダイアモンドベルトを贈呈し、「正式なチャンピオンになりたければ加盟料払ってね」と言ってきたWBC。それに対して「それは受け取らないです」と手を振った井上選手。

そういう見方をすれば、海外ボクシングファンが「井上よくやった!」と反応したのも理解できる。

参考文献:
https://sports.yahoo.com/blogs/boxing/no-sanction-fee–no-wbo-title-for-floyd-mayweather-011247890.html

NFL選手会、学生アスリートの「グループ・ライセンシング」をサポート

NFL選手会は、先週月曜日、全国カレッジプレーヤー協会(NCPA)とパートナーシップ契約を結んだ。

この契約に基づき、今後、選手の名前や肖像権の価値をどのように最大化するべきか、共同で検討していくという。

また、プレスリリースでは「すべての学生アスリートが参加できるグループ・ライセンシングの仕組みも提供する」という方針も明らかにされた。

グループ・ライセンシングとは、複数の選手の肖像権をまとめて扱うことで、プロ野球チップスのような様々な選手の肖像権を使用する際によく用いられる。

アメリカのカレッジスポーツでは、アメリカンフットボールと男子バスケットボールの人気が突出しており、そこで活躍する選手は有名人のような扱いを受けるが、その他のスポーツでは、全米一位の選手も全く知られていない、ということがざらにある。

したがって、NCAAが学生アスリートのエンドースメント契約を解禁したとしても、一部の選手だけが大きな契約を勝ち取り、その他の選手は今までと全く変わらない、ということが起きかねない。

今回の契約で発表された「グループ・ライセンシング」が実現し、それがあらゆるスポーツを網羅するものであれば、学生アスリート間の収入格差を多少は抑えることができるかもしれない。

参考文献:
https://www.nflpa.com/news/ncpa-nflpa-marketing-licensing-college-athletes
https://www.cbssports.com/college-football/news/nflpa-partners-with-college-players-group-in-pursuit-of-name-image-likeness-rights-from-ncaa/
https://www.nflpa.com/players/resources

MLB、マイナーリーグの構造改革を検討③

ニューヨーク・タイムズは、マイナーリーグ(MiLB)の会長パット・オコーナー氏が各チームに送った手紙を独自ルートで入手した。

その手紙には「施設や用具等の契約を結ぶ際、2020年以降まで有効となるような契約はしないように」という内容が書かれていたという。

これは、オコーナー氏が、同リーグのシステムが抜本的に見直される可能性を強く感じていることを示唆している。

近年、MiLBは家族向けエンターテインメントとしてのブランドイメージを確立し、ラテン系のファンを増やしチケット収入やグッズ収入も拡大し続けている。

また、前回の投稿で解説した通り、最も大きな支出である選手やコーチの人件費は提携のあるMLBチームが払ってくれる。既存のシステムは、MiLBにとって利点が多いのだ。

仮にこのシステムが崩壊すれば、MiLBチームを手放すオーナーも現れるだろう。実際、多くのオーナーは既存のシステムを維持したいと願っている。

そんなオーナーたちの意見を代弁するように、オコーナー氏は以下のように語っている。
「オーナーたちは不安や怒り、失望を感じています。私たちは、MLBとの関係はもっと強固なものだと思っていました。MLBは私たちが体現していることに敬意がありません」。

最終的にどのような構造改革が行われるのか、それにMiLBのオーナーや選手はどのように対処するのか、今後も注視する必要があるだろう。

参考文献:
https://www.nytimes.com/2019/10/18/sports/baseball/minor-league-changes.html
https://www.mlbtraderumors.com/2019/10/milb-president-responds-to-mlb-restructuring-proposal.html

MLB、マイナーリーグの構造改革を検討①

MLBとマイナーリーグ(MiLB)の関係は、両リーグが署名した契約に基づいている。

たとえば、MLBチームと傘下のMiLBチームは、選手の行き来はあるものの、別々の組織であり、オーナーも異なることが珍しくない(ここが日本の一軍・二軍の関係性と大きく異なる点だ)。

MLBチームは傘下のマイナーリーグ選手の給料も払う義務があるが、その代わりMiLBチームのオーナーには選手獲得の決定権は与えられない。

これらはすべて現行の契約に基づいている。その契約が来年9月に失効する。

MLBは、このタイミングでマイナーリーグの在り方について再考しようと、一年以上をかけて、マイナーリーグの施設、遠征、宿泊先、その他の労働環境に関する調査を行った。

そして、今月、いくつかの構造改革案をマイナーリーグ側に提案した。

これまで報道によって明らかにされている改革案は以下の通り。
・マイナーリーグのなかでも下位に位置するリーグ(シングルAやショートシーズンリーグ)を一つにまとめて「ドリームリーグ」を新設する。
・ドリームリーグのチームは、MLBとMiLBが共同で所有・運営する(現在のように各チームにオーナーがいる、という形はとらない)。
・ドラフトで指名できる人数を半減させる。
・マイナーリーグに所属するチームを全体で40チーム減らす。
・レベニューシェアもしくは税制度を導入する(裕福なチームの収益を貧しいチームに流す)。

もしMLBの改革案が採用されれば、相当数(1400人近く)のマイナーリーグ選手が解雇されることになるという。

マイナーリーグのオーナーからは不安の声が上がり、法的措置を検討しているオーナーもいるという。

では、なぜそのような大幅な構造改革が必要なのか。その背景については、明日の投稿で解説します。

参考文献:
https://www.nytimes.com/2019/10/18/sports/baseball/minor-league-changes.html

Dr. Millsインタビュー⑤イチロー選手の契約について

Q. 話ががらっと変わりますが、イチロー選手が今年引退しました。その際、話題になったのが彼の契約です。現役時代に稼いだ給料をすぐに受け取るのではなく、引退後まで分配するというものです。これは、北米スポーツ界では一般的な契約ですか?

A. 最近取り入れるアスリートが増えています。

最も有名な例は、元ニューヨーク・メッツのBobby Bonillaです。

彼は2001年に引退した元選手ですが、50歳を超える現在でもなお、毎年およそ120万ドルをメッツから受け取っています。そしてこれはなんと2035年まで続きます。

「引退した人間に120万ドルもの大金を払い続けるなんて馬鹿げている」と考えるスポーツファンは多く、いつからかメッツがBonillaに給料を支払う7月1日は「Bobby Bonilla Day」と呼ばれるようになりました。一種の皮肉です。

Q. アスリートにとって、このような契約の利点・欠点はなんでしょう?

A. 利点としては、もらえることが保証された給料ですから安全ですよね。
なにしろ、手元にあると浪費してしまうアスリートがたくさんいますから。

一方で、この契約だと年俸の現在価値(Present value)は下がってしまいます。言い換えれば、今すぐ給料をもらえればそれを投資して資金を拡大することもできるのに、その機会が奪われてしまうのです。

ちなみに、2019年にフィラデルフィア・フィリーズに移籍したBryce Harperがそれまで所属していたワシントン・ナショナルズのオファーを蹴った理由は、ナショナルズが年俸の支払いをあまりに先の将来まで引き延ばしたためと言われています。

Q. チームにとって利点はありますか?

A. 手元の現金が限られている、支払い能力が低いチームにとっては、年俸の拡散はありがたいですよね。今すぐ払わなくてはいけない年俸が減るわけですから。

また、サラリーキャップの問題を抱えているチームにとっても有効です。

スター選手をどんどん集めるチームは、リーグが設定した総年俸の上限に達してしまい、その結果、罰則金を支払ったり、それ以上選手を獲得できなくなったりしてしまいます。

しかし、各選手の年俸を長い期間に拡散すれば、一年あたりの支払額は減るわけですから、その年の総年俸を減らすことができます。その結果、集めた選手をキープしつつ、総年俸の上限に達することを防ぐことができるのです。

イチロー氏がどのような契約を結んでいたかはあまり知りませんが、彼の場合はマリナーズの戦略もあるかもしれません。

なにしろあれだけのスーパースターですから、おそらくマリナーズやMLBの大使として世界の野球界に貢献するような役割を期待されているでしょう。

したがって「引退後も彼との関係をつなげておく」という意味合いもあったのだと思います。

参考資料:
https://www.usatoday.com/story/sports/mlb/columnist/bob-nightengale/2018/07/01/bobby-bonilla-day-mets-deferred-payments-2035/749342002/

LearfieldとIMG College②司法省の結論

LearfieldとIMG Collegeという二大マーケティング・エージェンシーの合併の申請を受けた司法省は一年以上をかけてその可否を検討した。そして2018年12月末、司法省が出した結論は「条件付きで可」であった。

司法省が提示した条件は2つ。

まずは「Exclusive negotiating window(独占交渉窓口)」の撤廃。Exclusive negotiating windowは、大学体育局がマーケティング・エージェンシーと契約を結ぶ際によく組み込まれる契約事項で、これによって大学はエージェンシーとの契約が切れる前に、まずそのエージェンシーと契約延長の交渉をする義務が生まれる。

エージェンシーの立場からすれば、一度契約を結んでしまえば、あとはその大学をキープできる可能性が高くなるので競争上の強みとなる。

逆に、新規エージェンシーにとっては厄介なシステムである。いくらクライアントを増やそうと思っても、ほとんどの大学はすでにパートナーがいて、しかもいつの間にか契約が延長されてしまう。交渉の機会さえ訪れないのだ。

公正な競争状態を実現するためにはこの契約事項を禁止することが有効。それが司法省の判断である。

もう一つの条件は「Non-compete clause(競合禁止条項)」の撤廃。Non-compete clauseは雇用主と従業員の間に結ばれる合意で、従業員の転職・独立の自由を制限することが目的である。具体的には、「州内の営業禁止」、「退職後2年間は起業不可」といった地理的・時間的な制限がつくことがある。

Non-compete clauseが撤廃されることで、LearfieldやIMG Collegeで実績を積んだ優秀なスタッフが起業したり転職したりする可能性が生まれる。その結果、業界内の人材の流動性が増し、より公正な競争状態が実現されやすくなる。

LearfieldとIMG Collegeはこれの条件を受け入れ、新会社Learfield-IMG Collegeの設立を発表した。

Learfield-IMG Collegeはどのような革新的なビジネスを展開するのか。Learfield-IMG Collegeの地位を脅かすような新規エージェンシーは現れるのか。今後のカレッジスポーツ・エージェンシー業界に注目である。

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2017/09/25/Colleges/Learfield.aspx
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2019/01/07/Colleges/Learfield.aspx