Dr. Turickインタビュー④コーチの待遇にも現れるRacial Tasking

Q. 他にRacial Taskingが現れる場面はありますか?

A. この概念は、コーチの待遇にも応用できます。

昔と比べ、黒人のコーチは増加しています。しかし、求められる役割は白人コーチと必ずしも同じではありません。

カレッジフットボールを例にとると、黒人コーチに求められがちな役割は以下の2つです。

一つ目は、リクルーティング(有望な高校生選手をスカウトすること)。黒人の有望選手がいたときに、白人コーチではなく黒人コーチが選手や家族に挨拶に行ったほうが、その選手を獲得しやすいだろうという狙いです。

もう一つは、選手の世話役です。黒人選手が入学したあとに悩みを抱えた際、相談に乗るのは白人コーチよりも黒人コーチのほうが適任だろうという発想です。

つまり、戦略を練ったり試合の組み立てを考えたりする役割は、黒人コーチには必ずしも期待されていないのです。

言い換えれば、白人コーチが試合を勝つことに専念する傍らで、黒人コーチは選手の獲得や世話に時間や労力を割いているということですね。これはフットボールコーチとしてキャリアを築く上で大きな問題です。選手の獲得や世話の経験をいくら積んでも、試合での成果がないと上には上がれません。

Q. 問題はそのコーチの評価や役割が能力ではなく人種に基づくものだということですね。

A. はい、その通りです。

Dr. Turickインタビュー①スポーツは本当に実力主義?

Q. Dr. Turickが人種問題を研究しようと思った動機を教えてください。

A. 私が大学生のころ、アメリカンフットボールのチームで働いていました。そこで私がとても興味を持ったのは、大勢いる選手の85%くらいが黒人選手なのに対し、コーチ陣はほとんど全員白人だったことです。

そこで私が思ったことは、「何かしらの理由で黒人はコーチになりたがらないのか、それとも、何かしら構造的な欠陥があるのかどちらかだ」ということでした。

そこで調査をしたところ、コーチになりたい黒人は実はたくさんいることがわかりました。問題は、彼ら・彼女らにコーチになる機会が十分に与えられていないことだったのです。

スポーツは実力の世界だと多くの人は思っています。能力があれば活躍できると。しかしそれは間違いです。あなたが黒人なら、あなたが女性なら、あなたがゲイなら、あなたがムスリムなら、あなたが多数派でないなら、能力に見合った機会は必ずしも得られないのです。

Q. 85%の選手が黒人で、ほぼ全員のコーチが白人ということに関して選手たちはどう思っていたのでしょう。

A. 彼らは小さい頃からずっと白人コーチに教わっています。彼らにとってはコーチが白人であることが「普通」なわけです。そうなると、なぜそうなっているのかという疑問すら持ちません。

同様の現象は別の場面でも見られます。たとえば、女性アスリートのなかには女性コーチに教わりたくないという選手がいます。これは彼女たちが小さいころから男性コーチに教わり続けて、それに慣れているためなのです。

「慣れているから」「そういうものだから」と多くの人が納得してしまう。ここに構造的な問題があります。

Dr. McLeodインタビュー⑫日本ラグビー界への知見

Q. 日本では今、ラグビーのプロリーグ設立が議論されています。新リーグに際して注意すべきことは何でしょう。

A. 先ほどお話したように、ラグビー市場に存在する組織は互いに影響を及ぼしています。

したがって、新リーグ立ち上げに際しては、「リーグを成功させるために自分たちは何をすべきか」とだけ考えるのではなく「リーグ成功のために、他のラグビー関係者は何をすべきか」も考える必要があるでしょう。

それが明確になれば、それをサポートすることが可能になります。

また、「他のラグビー関係者(たとえば高校ラグビーや大学ラグビー)が成功するために、自分たちプロリーグは何をすべきか」も考えなくてはなりません。

アメリカの場合、プロリーグが果たすべき重要な役割は、アマチュア選手に明確な目標を与えることでした。日本の場合も同様の役割が期待されるかもしれませんが、全く異なるかもしれません。

それをきちんとクリアにすることが第一だと思いますね。

Q. それは非常に重要な知見ですね。プロ化の議論では、「需要はあるのか」「ターゲットは誰なのか」というように、消費者に注目することが多いのですが、ラグビー市場に存在する他の組織や関係者の視点も重要ということですね。

A. 日本というユニークな文化のなかでラグビー市場がどのように形成・機能しているのか、私も非常に興味を持っています。いつか日本に行って、研究したいですね。

Dr. McLeodインタビュー⑪アメリカのラグビー市場

Q. 話を戻すと、Dr. McLeodは、アメリカで設立予定であった4リーグの経営陣にインタビュー調査をされましたよね。どのような知見が得られたのでしょうか。

A. 設立の経緯やルールなど大きく異なる4リーグですが、いくつかの共通点がありました。

まずは、リーグ設立時の目標が「ラグビーを人気にしたい」という非常にざっくりとしたものだったということ。

これは、これからビジネスを始めようとする組織の目標としてはあまり良いものではないですよね。

一般的に言って、新しくビジネスを始めるのであれば、収益率や持続可能性を考えた具体的な目標が必要です。彼らにはそれがなかった。これは非常に興味深い点でした。

そこで、さらに話を掘り下げていくと、そもそも彼らは自分たちの力だけで成功を収められると思っていないことがわかりました。

「プロリーグが成功するためには、ユースや高校、大学、社会人といったあらゆるレベルのラグビー組織の貢献が必要である。またプロリーグ側もそういったアマチュアラグビーの成功に貢献する」。そういった考えを持っていたのです。

アメリカには、長らくプロラグビーリーグが存在しませんでした。そのため、たとえ有望な選手であっても、将来ラグビーを職業にして大金を稼ぐというイメージが湧かなかった。先ほど私が説明した言葉を使うなら、「時間差の報酬」を期待することができなかったわけです。

目標を失った選手は、アメリカンフットボールのようなスポーツに流れてしまいます。

プロリーグが成立すれば、アマチュアの選手にとって目指すべき場所が明確になり、選手の流出が食い止められ、アマチュアリーグの競技力維持に繋がります。

そして、アマチュアリーグが高い競技力を維持し、優秀な選手を育成すれば、それがプロリーグの競技力向上にも繋がります。

この相互の影響こそが、アメリカのラグビー市場を理解するポイントで、4リーグが共通して「プロリーグの成功にはアマチュアリーグの貢献が不可欠だ」と考えていた理由です。

Dr. McLeodインタビュー⑩ラグビー団体と労働市場

Q. プロクラブを締め出してまでアマチュアリズムを貫いてきたラグビー・ユニオンが1995年にプロ化に踏み切ったのはなぜだったのでしょう?

A. それには、新興ラグビー団体の台頭が大きく影響しています。

新たに立ち上げられたラグビー団体が、選手とプロ契約を結び、給与を与えることで、それまで所属していた団体から有望な選手を引き抜こうとしたのです。

ラグビーの歴史を見てみると、様々なラグビー団体が立ち上がり、それぞれがラグビーと言うスポーツをコントロールしようと覇権を争ってきた歴史であることがわかります。

覇権を奪うには有望な選手を囲い込むことが重要になります。そして、そのためには、選手に給与を支払う、つまりプロ化に向かって進むのは当然の道だったのでしょう。

私はこのインタビューの序盤で労働市場の重要性について話しました(コメント欄参照)。

そこで「アスリートがいなければ何も売ることも買うこともできない」と言いましたが、ラグビーがそれを示す良い例です。

結局、ラグビーというスポーツをコントロールするためには、アスリートという労働者を引き込むことが第一なのです。

Dr. McLeodインタビュー⑨ラグビーとアマチュアリズム

Q. ラグビーがプロ化を拒んだ文化的背景とは?

A. ラグビーが生まれたイギリスでは、アマチュア法が非常に重要視されてきました。

アマチュア法の目的は、スポーツを通じたお金儲けを禁ずること。

この内容から、アマチュア法がスポーツのクリーンさを保っているかのように解釈されることがありますが、実情は少々異なります。

スポーツを通じたお金儲けができないということは、言い換えれば、お金に困らない上級階級だけがスポーツに興じることができるということ。

つまり、アマチュア法には「労働階級に門戸を閉ざす」という役割があったのです。

これが、アメリカにおけるアマチュア法となると少し性質が変わるのですが、それは話が逸れてしまうので、置いておきましょう。

Q. 非常に興味深いですね。

A. 私たちが今「ラグビー」と呼んでいるのは、正確には「ラグビー・ユニオン」というスポーツです。

もともと「ラグビー・ユニオン」は、ラグビーのルール等を決定する統括団体の名前です。

かつては、イギリス全土のクラブがラグビー・ユニオンに所属していたのですが、労働階級の多いイギリス北部のクラブはアマチュアリズムに反対し、プロ化を進めました。

北部のクラブが選手に給与を払い始めたため、南部のクラブが北部クラブをリーグから追放。追放された北部クラブが「ラグビー・リーグ」という新リーグを始めました。

このラグビー・リーグのルールは、ラグビー・ユニオンのそれとは異なります。そのため、今日、ラグビー・ユニオンのルールに則ったゲームを「ラグビー・ユニオン」、ラグビー・リーグのルールを用いるゲームを「ラグビー・リーグ」と呼ぶのです。

世界的に見れば、競技人口や人気はラグビー・ユニオンが圧倒的ですが、オーストラリアやウェールズなどではラグビー・リーグも人気です。

Dr. McLeodインタビュー⑤2つのアイデンティティ

Q. 先ほど言った通り、先日訪れたすべてのスポーツ組織が、「スタッフが自分の仕事に誇りを持つことが重要」と考えていました。

さらに興味深かったのは、それをスタッフ個人の問題にするのではなく、職員が誇りを持てるように組織として取り組んでいる点です。

たとえば、テキサス工科大学の体育局には、スタッフしか着ることが許されないアパレルがあります。そしてそれがすごくかっこいい。

また、ダラスにあるマイナーリーグのチームは、若手社員をチームの代表として自治体の委員会に参加させています。

こういったことを通して、そこで働いていることの特別感を演出しているわけですね。

このように組織内の人に向かって行うブランディングを「インターナル・ブランディング(Internal Branding)」と呼びますが、アメリカのスポーツ組織は、それを戦略的に行っている印象があります。

A. なるほど、面白いですね。

もう一つ付け加えるとすれば、スポーツ組織で働く人には2つのアイデンティティがある、ということです。

一つは、チームやリーグへのアイデンティティ。「私はカウボーイズのスタッフ」、「私はNBAで働いている」という実感です。これはファンが好きなチームに対して抱く感情と似ています。

私が以前、スポーツ組織のインターンを対象に行った研究では、多くのインターンがこのようなアイデンティティの重要性について言及していました。

もう一つは、自らの業務に対するアイデンティティ。これは職場・同僚とのつながりや自分の役割に対する愛着です。

この2つのアイデンティティに関してはまだわかっていないことが多いのですが、社員の誇りを維持・向上させるためには分けて考える必要があるかもしれません。

Q. なるほど。たとえば、働きたての頃はチームへのアイデンティティを強調し、長く続けてもらうためには業務に対するアイデンティティを育むことが大切、というようなキャリアのフェーズに応じた働きかけは必要かもしれませんね。

A. はい、そういったことはあると思います。アイデンティティ理論は、私の専門からは少し外れるので多くは言えませんが、面白いアイデアだと思います。

Dr. McLeodインタビュー④「時間差の報酬」のダークサイド

Q. 先日、テキサス州内のスポーツ組織を訪れ「スポーツ業界で成功するために必要なことは?」という質問をしてきました。

その相手は、メジャーリーグ、マイナーリーグ、カレッジチーム、スポーツコミッションなど様々でしたが、いくつかの答えは共通していました。

それが「自分の仕事に誇りを持っていること」と「自ら進んで取り組む姿勢」です。

これは、Dr. McLeodが説明してくれたことと通じると思います。つまり、こういった素質を持っている人は、「時間差の報酬」をモチベーションに働くことができるということです。

A. そうですね。ただし、気を付けなければいけないのは、労働者が期待していた「時間差の報酬」が受け取れなかったとき、それは搾取に繋がってしまうということです。

人は往々にして、自分が達成できることを過大に見積もってしまいがちです。

これは、行動経済学では「Optimism Bias(楽観的バイアス)」と呼ばれ、色々な場面で確認されています。

たとえば、マイナーリーグの選手たちは「自分はいつかメジャーリーグで活躍して大金を得る」と信じているからこそ、恵まれない労働環境も受け入れることができます。

しかし、実際のところ、自らの期待していたキャリアパスを進めている選手は多くありません。

多くの選手は期待していた「時間差の報酬」を受け取ることなく、ただただ不利な労働条件をのんでいるということになるのです。

これはアスリートだけでなく、インターンや若手スタッフにも同様のことが言えます。

Dr. McLeodインタビュー③「時間差の報酬」

Q. スポーツ組織で働くことに特有の課題があるのですね。

A. スポーツ組織で働くということは、その労働者にとって特別な意味を持ちます。そして彼ら彼女らの仕事を特別にしている要素は、大きく分けて2つ。

「Aspiration(大志)」と「Connection(つながり)」です。

一つ目の「大志」とは、言い換えれば、「労働の先に何か重要なものを見出せる」ということです。

たとえ現在の労働環境に満足していなくても「いま頑張っていることは、いつか何かを達成するために必要なこと」と感じること。これはあらゆる業種で存在するとは思いますが、スポーツ産業では顕著です。

二つ目の「つながり」とは、「私は大好きなカウボーイズで働いているんだ!」というような、とても個人的で感情的なつながり。スポーツ組織で働く人は、そういったつながりをしばしば形成します。

私はアメリカに来る前に工場で働いていたことがありますが、そこで労働者が目指していることは「より素早く、より効率的に」ということ。それが収益を上げる唯一の手段だからです。

その職場には、私にとって個人的な目標は存在しませんでした。そしてその工場に対して愛着もありませんでした。その職場で私が望んでいたものは、自分が働いた分の給与をもらうこと。それだけでした。

一方で、私が大学院でスポーツマネジメントを学んでいたとき、金銭的な見返りがない仕事でも率先して行っていました。それは「いま頑張った分がいつか返ってくる」と考えていたからです。

この「時間差の報酬」ともいうべきものが、スポーツ産業にはあると思います。

Q. なるほど。大学院は「成長の場」という側面が強いと思いますが、スポーツ組織で働く人、たとえばチケットセールスの人も「時間差の報酬」という考えを持っていると思いますか?

A. 確かなことは言えませんが、持っていると思います。

たとえば、インターンシップは無償のことも多々ありますが、多くの人がその職を取りに行きます。それは「ここで結果を残せばもっといい仕事にありつける」と考えているからでしょう。

Dr. McLeodインタビュー②アスリート以外の労働者

Q. では、スポーツ産業における労働市場というのは、主にアスリートを対象にした研究分野なのでしょうか。

A. いえ、アスリート以外の労働者も研究対象です。

マーケティングや人事、ボランティアといった労働者には、アスリートとはまた異なった意味で研究する意味があります。

スポーツ産業で働いている人の大多数は、アスリート以外の労働者です。そしてその労働環境も非常にユニークです。

10年ほど前に「Pulsating Organization」という概念が提唱されました。

これは、一年を通して働く核となる職員がいたうえで、イベントの準備・開催期間に合わせて一時的に雇われる職員の数が急激に増加する組織を表す概念です。

(補足:Pulsatingは「脈を打つこと」、Organizationは「組織」を意味する。職員数が激増してから元の状態に戻るさまが、心電図に写る脈動に似ていることからそう名付けられたと考えられる)

スポーツ産業にはこのような組織が多く存在します。

そういった組織で一時的に雇われる労働者は、一般的な労働者と比べ、法律で保護されている権利が小さいため、搾取や差別の対象となることがあります。

また、一時的に雇われる労働者を扱うのは非常に複雑かつ難しいので、そういった組織を効率的に運営するための契約や組織づくりなどが研究されています。