ジョコビッチ、男子プロテニス選手会の新設を発表

先週、プロテニス選手のノバク・ジョコビッチは「Professional Tennis Players Association(PTPA;プロテニス選手会)」の設立を発表した。

男子のプロテニス選手を代表し、大会のルール、賞金、年金、そして健康保険などに関する意見を発信することを目的とする。

他のメジャースポーツと異なり、テニスには労働組合が存在しない。選手個々が「個人事業主」として大会に参加し、その他ビジネスを展開する。

結果として、選手が一つの集団として意見を形成し、大会運営等に変化をもたらすことが難しかった。

Association of Tennis Professionals(ATP)がそういった役割を担ってきたはずだったが、ATPは自ら大会も主催しており、純粋な選手会とは異なる性質を持っている。

実際、ATP選手評議会のメンバーであったバセク・ポシュピシルは「現在のATPの組織構造では、選手が大会運営に重要な影響を与えることは極めて難しいことを痛感した」と話している。

選手会の新設にあたり、ジョコビッチは「これは労働組合ではなく、あくまで選手会です。ボイコットを呼びかけるようなことはしません。独自の大会を始めることもありません」と説明し、また、ATP選手評議会との共存も明言している。

しかし、ロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダル、そしてアンディ・マリーといったトップ選手を初め、この動きに反対する選手も少なくない。

ナダルは「テニス界が一つになることで、大きなことを達成できます。選手、大会運営、そして競技団体が協調しなくてはいけません」とコメント。またマリーは、新選手会に女子選手が関わっていないことも大きな懸念材料だとした。

果たして、新団体の設立はテニス界にどのような変化を生むのだろうか。

参考文献:
https://www.sportspromedia.com/news/novak-djokovic-mens-player-association-ptpa-nadal-federer-murray-us-open
https://www.washingtonpost.com/sports/2020/08/30/novak-djokovics-new-players-association-proposal-divides-tennis-difficult-time/

コロナウイルスの影響:テニス業界のケース

テニスは、スポーツ業界のなかでも色々な面で特殊である。そして、その特殊性ゆえに、コロナウイルスの影響も他のスポーツ組織とは異なる。

たとえば、テニス界には主要団体が3つあり(ATP、WTA、ITF)、それぞれが独自に大会を運営している。加えて、全仏オープンや全米オープンなどは独自の主催者がいる。

その結果、大会によってコロナウイルスへの対処法が異なり、関係者に混乱をもたらしている。

また、NBAやMLBは試合中止に備えて保険に加入しているが、ATPなどのテニス団体は、大会中止用の保険に加入していないことが多い。

その結果、損失の埋め合わせができず、経済的な影響が大きくなってしまっている。

選手にも特異な点がある。

まず、テニス選手は大会に合わせて世界中から集まるため、運営側は選手の管理が難しい。選手によっては入国制限がかかっている場合もある。そういった問題を個別に対応していくのは手間がかかる。

また、巨額のエンドースメント契約を結んでいるトップ選手を除けば、ほとんどの選手は大会賞金を主な収入源としている。そういった選手にとって、試合中止は収入ゼロを意味する。

チームと雇用契約を結び、固定給をもらうNBAやMLBの選手とは、試合中止の意味合いが異なるのである。

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2020/03/16/Leagues-and-Governing-Bodies/Tennis.aspx

ナイキ、エンドースメント契約の方針を変更

これまでナイキは、エンドースメント契約を結んだアスリートにある制約を課してきた。それは「ナイキのウェアにはナイキ以外の企業ロゴをつけてはいけない」というもの。

たとえば、錦織圭選手はユニクロのウェアを使用しているが、そのウェアには日清食品のロゴもついている。一方で、ナイキのエンドーサーであるセリーナ・ウィリアムズ選手のウェアにはナイキのロゴしかついていない。

このルールが適応されなかった唯一の例外は、中国のリー・ナ選手。同選手が2011年に全仏オープンを制覇した際、ナイキは彼女との契約を他社に奪われることを恐れて、この制約を解除した。

その結果、リー・ナ選手はメルセデスベンツと巨額のエンドースメント契約を結ぶことに成功し、その後は同社のロゴをナイキのウェアにつけてプレーした。

この度ナイキは、これまで厳格に適応してきたこのルールを緩和させる方針を示した。

たとえば、ナイキが最近契約を結んだ2人の中国人テニス選手は、SAPとGanten(中国のミネラルウォーターブランド)のロゴをウェアに掲載することになっている。

IMGのMax Eisenbud氏によれば、これらの契約によって2選手は、10万ドル以上の契約金を手にしたという。

ナイキとしては、他社のロゴがついていないほうがアスリートとの関係性を強調することができるが、アスリートとしてはこの制約があるせいで逃しているビジネスチャンスもある。

ナイキの今回の決断は、選手により大きな自由を与えることで他社に乗り換えられるリスクを減らす狙いがあると考えられる。

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2019/02/18/Marketing-and-Sponsorship/Nike-China.aspx

米中貿易戦争、スポーツ界への影響

「米中貿易戦争」と呼ばれるアメリカと中国の政治的対立は様々な産業に影響を与えているが、それがスポーツ業界にも及びつつある。

2019年1月、テニスのWTAはスポンサー契約合意間近であった中国企業との交渉決裂を発表した。

中国ではあらゆる契約に政府の署名が必要であり、この署名を得るのが現状難しいと判断した上での決定ではないかと関係者は見ている。

WTA会長のMicky Lawler氏は「国際的な政治情勢を鑑みて交渉は中断することになった」として、米中貿易戦争の直接的な影響については明言しなかった。

しかしある関係者によれば、合意間近であった交渉が急転したのは中国企業のファーウェイのCFOがカナダで逮捕された翌日であったという(ファーウェイのCFOは、米国の対イラン貿易制裁に違反した疑いで逮捕された)。

スポーツビジネスコンサルタントのMarc Ganis氏は、今回の交渉中断は全く驚きではないという。中国でのビジネスにも携わる同氏曰く「中国政府はほぼすべてのことに関与してくる」と言う。「WTAのスポンサー契約ともなれば国際的な注目も浴びる。これは中国では慎重に扱うべき問題です。これほど大きなスポンサー契約を締結するためには政治的な問題が解決される必要があるでしょう」。

WTAは5社のスポンサー企業を抱えるが、WTAはさらに包括的なトップスポンサーを2012年から探していた。

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2019/01/28/Marketing-and-Sponsorship/WTA-China.aspx

スポーツ賭博⑧ テニス団体の強硬姿勢

ここまで解説してきたように、四大スポーツリーグはスポーツ賭博に関して概ね肯定的である。一方で、そんな流れと逆行するように、スポーツ賭博から距離を取ろうとしているスポーツがある。テニスである。

テニスは、現在、最も八百長が確認されているスポーツである。たとえば、European Sports Security Associationという団体は八百長の疑いのある賭けを報告しているが、2017年の第4四半期に報告された114の疑わしい賭けのうち71がテニスにおけるものであった(次に多いのはサッカーで18)。

テニスは、四大大会で活躍するようなトッププレーヤーを除くほとんどのプロ選手が金銭的な問題を抱えている。ランキング下位の選手が獲得できる賞金は限られており、ランキングを上げようと思うと遠征費がかさむからである。

大会で得られる賞金よりも、闇賭け業者から得られる金額のほうが大きい。 ランキング下位選手にとって八百長の誘いは悪魔のささやきなのだ。

「Independent Review of Integrity in Tennis」というレポートによれば、テニスの試合で起こった八百長のほとんどはランキング下位の選手が関与しているという。

同様の問題は他のスポーツでも懸念されており、たとえば野球ではマイナーリーグが、バスケットボールではGリーグが賭けの対象外とされるケースが多い。

Independent Review of Integrity in Tennisでは、「テニスイベントおよびツアーはランキング下位の試合に関するデータをブックメーカーに販売したり、ブックメーカーとスポンサー契約を結んだりすることは禁止すべき」と結論付けている。

これと同調するように、2018年、主要なテニス団体の一つであるAssociation of Tennis Professionals(ATP)は、ATP World TourおよびChallenger Tourのスポンサーとしてギャンブル業者と契約を結ぶことを禁止した。

現在ATP関連のツアーは、全豪オープンのWilliam Hillを始め、いくつかのギャンブル業者がスポンサーとしてついている。今後、これらの業者とスポンサー契約を更新することは禁止される。

他のテニス団体では、Women’s Tennis Association(WTA)は、選手のスポンサーにギャンブル業者がつくことは禁止しているが、大会のスポンサーになることは禁止していない。そして全米オープンの主催者は「ギャンブル業者とは一切スポンサー契約を結ぶつもりはない」としている。

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/05/07/Leagues-and-Governing-Bodies/Tennis-gambling.aspx
http://www.tennisintegrityunit.com/storage/app/media/Independent%20Reviews/Final%20Report_191218.pdf
https://www.apnews.com/be7648ab16e54b679a027b25b469d5f0
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/06/25/Leagues-and-Governing-Bodies/Tennis-gambling.aspx

ピケが変えるデビスカップ

男子テニスの国別対抗戦「デビスカップ」は、1900年から続く伝統ある大会である。2019年、そのルールが一人のサッカー選手によって変えられる。

FCバルセロナに所属するジェラール・ピケは、2017年にKosmos Tennisというベンチャー企業を設立した。

31歳のピケはトップアスリートでありながら、起業家精神があり、他にもKosmos Studiosという映像制作会社を立ち上げている。

Kosmos Tennisの他の創設者は、音楽プロデューサーのNullah Sarker氏、Timbaland ProductionsのMike Evans氏、中国の大手代理店SecaのEdmund Chu氏、そして楽天の三木谷氏である。興味深いことに、テニス関係者は一人もいない。

2018年、Kosmos Tennisはデビスカップを主催するInternational Tennis Federation(ITF)と業務提携を結んだ。ITFの発表によれば、契約は25年30億ドル。

同年8月、ピケはFCバルセロナの練習を休み、フロリダ州オーランドで行われたITFの会議に参加した。そこで、207の加盟国を前に、Kosmos Tennisの計画をプレゼンした。その結果、加盟国の70%以上がこの計画を支持し、デビスカップのルール変更が公式に認められた。

Kosmos Tennisの計画によって、最も大きく変わるのが大会スケジュールだ。従来のデビスカップは、一回戦(2月)と二回戦(4月)、二回戦と準決勝(9月)、準決勝と決勝(11月)の間にそれぞれ数ヶ月のギャップがあった。これを、新ルールでは、全試合を11月の1週間に一気に行う。

この形式のほうが、スポンサー獲得や放映権販売が容易になるとKosmos Tennisは見ている。

しかしKosmos Tennisのビジョンは、大会の収益拡大に留まらない。同社のSarker氏は、2018年のインタビューの中で、ITFともう一つの国際的なテニス団体であるAssociation of Tennis Professionals(ATP)の統合に言及した。

「我々は2団体の統合を期待しています。我々がやろうとしているのは、テニスコミュニティを一つにすることなのです。それは選手だけではなく、組織も。それができたら素敵ですよね。全力を尽くして、あらゆる誤解を解いていたいと思います」。

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/12/17/Events-and-Attractions/Kosmos.aspx
https://www.daviscup.com/news/281842.aspx
https://www.kosmosholding.com/#about
https://www.kosmostennis.com/

ロボットカメラとスポーツ中継

2018年8~9月に開催されたUS Openは、ESPNが映像制作を担当し、その映像がテレビとネット上で中継された。

同大会では16のコートが使用されるが、ESPNは今回初めて、そのすべてのコートで映像制作を行った。それを可能にしたのが、ロボットカメラの存在である。

従来は、カメラマンがコートに配置され、その他多くのスタッフが制作室でカメラマンへの指示や編集等を行ってきた。今回のUS Openでも、16コートのうち7コートではこの方法が採用された。

一方で、残りの9コートの映像は、Viboxと呼ばれるロボットカメラを活用した制作方法が用いられた。Viboxの場合、必要なスタッフは2名だけ。一人がリモコンでカメラを操作し、もう一人がプロデューサー兼ディレクターとして、カメラアングルの選択やリプレイの挿入などを行う。

Viboxは従来の方法に比べ、かなり効率的に映像制作ができ、しかも映像のクオリティは従来のものに全く劣らないという。

ESPNは、2018年4月にESPN+というネット中継チャンネルを設立し、現在同チャンネル用のコンテンツ充実を図っている。Viboxの導入はそれに大いに貢献しそうである。

参考文献:https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/09/03/Media/USOpen-production.aspx

AIで選手強化

近年、スポーツビジネスの現場でAIが活用され始めている。

たとえばゴルフのPGAは、観客の歓声や選手のリアクションなどのデータをもとにハイライト映像を編集するAIを導入している。

現在、全米テニス協会(USTA)は、AIを選手強化のために活用している。

2018年夏、USTAのハイパフォーマンス・コーチング部は、それまで撮り貯めておいた何千時間という膨大な資料映像をAIに読み込ませた。AIは、そのデータを用いて選手のパフォーマンスを分析する。協会はその分析結果をもとに、ジュニア選手からトップ選手まで、個々の選手にあったトレーニングレポートを作成している。

たとえば、ある選手がミスをしたあとに、それがパフォーマンスに好影響を与えるのか、悪影響を与えるのか、それともまったく影響はないのか、という情報がコーチに渡される。コーチはそういった傾向を知ることで、その選手の特性を理解することができ、より効果的なコーチングが可能になるという。

担当者のElizabeth O’Brien氏は「私たちはビデオを豊富なデータ源と捉えています」と話す。「人間がビデオを見るだけでは気が付かないようなこともすべてデータとして取り込めます」。

AIの導入前、選手の動きなどは手作業で入力しなくてはならなかった。当時2時間かけて行っていた作業は、現在2分で片付くという。

参考文献:https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/09/17/Leagues-and-Governing-Bodies/USTA-AI.aspx