「バイデン大統領」は米スポーツ界にどのような影響を及ぼすか②

前回の投稿では、アメリカ大統領選の結果がプロスポーツチーム売却に影響を及ぼす理由について解説した。

実際、今年10月末にユタ・ジャズが売却された際、多くの専門家はこれを「バイデン氏勝利の可能性を考慮した上での売却」と推察した。

ジャズ新オーナーのライアン・スミス氏(Photo Credit: Getty Images)

ジャズ前オーナーのラリー・ミラー氏は、1980年代に総額2400万ドルで同チームを買収した。それからチームの価値は上がり続け、現在ジャズの価値は16.6億ドルと算出されている。

実際にジャズがいくらで売却されたのかは明らかになっていないが、ミラー氏はかなりの資本利得(Capital Gain)を手にしたはずだ。

Sports Business Journalによれば、資本利得にかかる税金として、ミラー氏は3億ドルほどを国に納めたと見られる。

仮にバイデン氏が提言している税率を用いた場合、この額は6億ドルほどになる。言い換えれば、ミラー氏はトランプ氏が大統領であるうちにチームを売却したことで、3億ドルを節税したのである。

同様に、ニューヨーク・メッツも売却がほぼ成立している(売却額:24.2億ドル)。仮にすべての手続きが今年中に終われば、4億ドルほどの節税につながる。

他にも、バイデン氏は相続税の増税にも言及しており、これは特に高齢化が顕著なNFLのオーナーにチーム売却を考えるきっかけを与えそうである。

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2020/11/09/Law-and-Politics/Election-teams.aspx

「バイデン大統領」は米スポーツ界にどのような影響を及ぼすか①

Photo Source: BBC.com

報道によれば、アメリカ大統領選挙は、バイデン氏の当選が確実となった。この結果はスポーツ界にどのような影響を及ぼすのだろうか。

一部関係者によれば、バイデン大統領誕生までに、プロチームの売却が頻発する可能性があるという。それはなぜか。

民主党に所属するバイデン氏は、富裕層への課税強化を推進すると見られる。

たとえば、資本利得(Capital Gain)に対する税率を最大20%から39.6%まで引き上げることを提案している。

資本利得というのは、購入した資産(株式や不動産など)の価値が上昇することによって生まれる利益である。単純化すれば、資産の購入価格と売却価格の差が資本利益となる。

そしてこの資産にはスポーツチームも含まれる。しかも、スポーツチームはかなり優秀な資産である。

Forbesの査定によれば、プロチームの年平均成長率(CAGR)は、NBAが約19%、MLBが約14.2%、NFLが約11.6%だという。これだけ成長率の高い資産はなかなかない。

つまり、長年所有していたチームを売却するときには、大きな資本利得が生まれるということである。

しかし問題はそれにかかる税金である。これが20%か39.6%によって、何百、何千億円という差が生まれかねない。

「そうなる前にチームを売却しよう」。そう考えるオーナーも少なくないのではないか。これが、「プロチーム売却が頻発する」と予想する根拠である。

(次回は具体的な事例を見ていきます)

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2020/11/09/Law-and-Politics/Election-teams.aspx

Adidas、Reebok売却を検討中

AdidasがReebokの売却を検討していることが明らかになった。今後数ヶ月のうちに最終的な決定を下すという。

Adidasは2005年に38億ドルでReebokを買収したが、2016年にカスパー・ローステッド氏がAdidasのCEOに就任してからは常に売却の噂があった。

現在Adidasはコロナウイルスの影響で収益を大きく減らしている。2020年第2四半期の売上は前期比34%減、Reebokだけを見ると42%減であった。

Reebokの売却が成立すればAdidasは財務状態を改善することができる。

報道によれば、VF Corporation(TimberlandやThe North Faceの親会社)などがReebokの買収に興味を示しているという。

売却額は23億ドルほどになると推定されており、そうなれば15年前にAdidasが支払った金額を大きく下回ることになる。

参考文献:
https://www.sportspromedia.com/news/adidas-reebok-sale-kasper-rorsted-vf-corporation-anta-international

MLS、3クラブが売却交渉中

Photo: Getty Images

現在MLSは、3つのクラブが同時に売却交渉を行っている。

まず、以前解説した通り、レアル・ソルトレイクは前オーナーの問題発言が発端となり「クラブを先に進めていく上で最善の手段」という名目で売却が発表された。

オーランド・シティSCは、現オーナーがそもそも投資目的でクラブを所有していたという背景がある。2015年に7000万ドルで手に入れたクラブは、現在3億ドル近い価値があると算出されている。

ヒューストン・ダイナモは、NBAのスター選手ジェームズ・ハーデン氏が昨年オーナーグループに加わったばかりだが、筆頭オーナーのブレナー氏が所有権の売却を検討していることが明らかになった。

3クラブが売却に至った経緯は異なるが、今が売却のいいタイミングであることは共通している。

たとえば、MLSは2022年に新しい放映権契約を結ぶ。業界のトレンドから予測すると既存の契約よりも大きな契約になると考えられる。

2026年には、北米3か国共催のFIFAワールドカップが開催される。これによってアメリカ国内のサッカー人気が高まる可能性がある。

拡大するMLS人気とこれらの将来性を合わせると、MLSクラブの価値が今後さらに上がることも十分に考えられる。したがって、今売却を持ち掛ければ買収に乗り出す資産家が多く存在するのである。

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2020/10/19/Leagues-and-Governing-Bodies/MLS.aspx
https://www.forbes.com/sites/chrissmith/2019/11/04/major-league-soccers-most-valuable-teams-2019-atlanta-stays-on-top-as-expansion-fees-sale-prices-surge/#77fb06a151b5

Fanatics、Vetta Brandsを買収

Photo By Steve Gooch, The Oklahoman

Fanaticsは、スポーツアパレル会社のVetta Brandsを買収した。

Vetta Brandsは、カレッジスポーツのキャップ製造大手であるTop of the Worldの親会社である。

この買収によって、Fanaticsは、Vetta Brandsが持つアパレル(特にキャップ)製造技術・施設と600を超える大学のライセンス(グッズを製作する権利)を手に入れることになる。

一方で、Top of the Worldはコロナウイルスの影響で8月から施設の稼働を止めており、200人の従業員を解雇していた。今回の買収によって、負債を返済しグッズ生産を再開することができる。

今回の買収は両社にとってメリットがあるものと言えるだろう。

Top of the Worldはオクラホマ州に巨大な倉庫を保持しており、ここが今後Fanaticsのキャップビジネスの拠点となるという。

コロナ禍にあってもFanaticsの勢いは衰えを知らない。

同社のネット販売の取引は今年に入ってから30%増加し、先月には3億5000万ドル分の資金を新たに調達している。

参考文献:
https://www.sportspromedia.com/news/fanatics-vetta-brands-assets-top-of-the-world-headwear-college-sports
https://www.sportspromedia.com/news/fanatics-valuation-funding-round-merchandise-nfl-mlb

レアル・ソルトレイク、オーナーがクラブ売却へ

ここ数日間、レアル・ソルトレイクは難局に立たされている。

先週27日、オーナーのデル・ロイ・ハンセン氏が人種差別的な発言をしたという前職員の告発が報道された。

翌28日には、MLSとNWSLが調査を開始。

そして30日、ハンセン氏は声明を発表し、差別的な発言をしたことについて深く謝罪した。

さらに「レアル・ソルトレイクが先に進んでいく上で最善なのは、新しいオーナーを迎えること」として同クラブの売却に向けて準備を進めていることを認めた。

なお、ハンセン氏が売却しようとしているのは、「ユタ・サッカー・ホールディングス」というレアル・ソルトレイクの親会社で、同社はユタ・ロイヤル(NWSL)とレアル・モナークス(USL)という2クラブも所有している。

この報道を受けて、すでに複数の人物が買収に名乗りを上げている。

元アメリカ代表選手で、現在はトロントFCでプレーするジョジー・アルティドール氏。

NFLのスター選手JJ・ワット氏。

Qaultricsというソフトウェア会社の創設者であるライアン・スミス氏。

そして、ユタ・ジャズを所有しているLarry H Miller Sports Group。

バラエティーに富んだ候補者が並ぶが、果たして、新オーナーは誰になるのだろうか。

参考文献:
https://www.sportspromedia.com/news/dell-loy-hansen-real-salt-lake-sale-racism-allegations-mls-nwsl
https://theathletic.com/2027796/2020/08/27/dell-loy-hansen-has-history-of-racist-comments-as-rsl-owner/

MiLBの収入激減

Photo by Mark Brown/Getty Images

MLBは、今月23日に2020年シーズンを開幕するが、マイナーリーグ(MiLB)はすでに全試合中止を発表している。

テレビ放映やスポンサーシップから多くの収入を得ているMLBと異なり、MiLBは収入のほとんどを試合会場で得ている(チケット、飲食、グッズ、駐車場など)。

全試合が中止になるというのは、そういった収入を上げる機会が奪われることを意味する。

もちろんスポンサーシップ収入もあるが、MiLBの場合、地元の中小企業と小規模のスポンサー契約を結んでいることが多く、その場合、スポンサー企業のほうもコロナウイルスの影響を受けており、スポンサー料が払えなくなるケースもある。

チームによっては、大学野球の試合や少年野球の合宿、さらには結婚式といったイベント用にスタジアムを貸し出すことで臨時収入を得ているが、その規模は限られている。

一方で、多くのMiLBチームは、連邦政府から救済支援ローンを受け取ることが認められた。これによりリーグ全体で5515人の職が守られるというが、その効果も夏いっぱいで尽きると見られている。

この苦しい状況のなか、MiLBチームの運営をさらに複雑にしているのがMLBとの関係である。

以前の投稿で解説した通り、現在MLBはMiLBの構造改革を検討しており、場合によっては40以上のMiLBチームが消滅することになる。

コロナウイルスの影響でこの件は現在保留となっているが、MiLBチームのオーナーやスポンサーの頭の片隅には常に存在し、意思決定に影響を与えている。

たとえ、「今が踏ん張りどころ。コロナが収束したら元通りになるはず」と前向きに考えようとしても、その先に待っているのはチーム消滅かもしれない。それならば、いっそ今すぐ破産申請してしまうべきか。

MiLBチームは難しい選択を迫られている。

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2020/07/13/Ratings-and-Research/MiLB-revenue.aspx

マーク・キューバン氏「eスポーツチームのオーナーは『ひどいビジネス』」

ダラス・マーベリックスのオーナーとして有名なマーク・キューバン氏は、NBA2Kリーグのマブス・ゲーミングというプロeスポーツチームのオーナーも務める。

そのキューバン氏が、先週放送されたインタビュー番組のなかで、「アメリカにおけるプロeスポーツチームのオーナーはひどいビジネスだ」と語った。

キューバン氏は以下のように続けた。

「世界全体で見ればいいビジネスです。成長もしています。しかしアメリカ国内に関して言えば、eスポーツチームのオーナーというのは、ひどいビジネスです」。

「eスポーツに投資した人の多くは、ヨーロッパやアジアでの視聴者数とアメリカ国内の視聴者数に大きな開きがあることを十分に理解していなかったように思います」。

「アジアにはお金があります。韓国や中国ではたくさんのお金が動いています。じゃあアメリカではどうか。あまりないんですよ」。

ここ数年、アメリカでは多くの投資家がeスポーツに投資をしてきた。しかし、実際にeスポーツチームが放映権やスポンサーシップから上げる収益は、投資家が期待するレベルに達していない。

この状況が続けば、投資家が離れ、アメリカ国内のeスポーツ市場も収縮しかねない。

参考文献:
https://www.dallasnews.com/business/entrepreneurs/2019/10/24/mark-cuban-owning-an-esports-team-in-the-us-is-an-awful-business/

ロイヤルズ売却⑤ 税金対策

この連載最後に解説したいのは、税金対策である。これはチームを買収する動機にはならないだろうが、チームを所有し続ける動機にはなり得る。

アメリカでスポーツチームを買収する際、「Roster Depreciation Allowance(RDA)」という法律が適用される。これはアメリカのスポーツビジネスで見られる最も特異な現象の一つだが、意外と知られていない。

Rosterとは「所属選手」、Depreciationとは「減価償却」、Allowanceとは「許可」を意味する単語である。つまり、これはオーナーがチームに所属する選手を減価償却できるという法律なのだ。

減価償却とは、長期に渡って使用する固定資産を企業が購入した際に、その費用を時間の経過に合わせて計上していくことである。

たとえば、30万円のパソコンを購入した際に、その年に30万円を計上するのではなく、3年間に分けて10万円ずつ計上することができる。その結果、会計上収益を小さくして所得税を抑えることができる。

これをスポーツ選手に適応するのがRDAだ。

たとえば、チームを買収した時点での選手総年俸が150億ドルだった場合、それを15年間に10億ドルずつ費用として計上できる(*毎年同額を計上しない方法もある)。10億ドル分の所得税を抑えるというのはオーナーにとってとても大きな効果である。

RDAに関しては「選手は労働者であって資産ではない」、「選手の価値は必ずしも年々減少しない」といった批判もあるが、60年以上存在し続けている。プロリーグやチームオーナーは政治家たちの重要な後援者となっていることも多く、彼らの機嫌を損ねるようなことはできないということもあるだろう。

ちなみに、何年かけて減価償却費を計上していくかは資産の種類ごとに決まっており、RDAの場合は最大15年と決まっている。つまり、チーム買収後15年間に渡って、オーナーは所得税を抑えることができるのだ。

2017年に当時イチロー選手が所属していたマイアミ・マーリンズが売却されたことは日本でも報じられた。しかし、この年が前オーナーJeffrey Loria氏がマーリンズを買収してから15年目、選手の減価償却ができる最終年度だったことはあまり知られていない。

参考文献:
https://sabr.org/research/roster-depreciation-allowance-how-major-league-baseball-teams-turn-profits-losses
https://www.greenberglawoffice.com/roster-depreciation-allowance/

ロイヤルズ売却④ ビジネス機会創造

北米メジャーリーグでは、チームオーナーが他にビジネスを持っていることがほとんどだ。不動産、物流、ホテル、メディア、金融などなど。

オーナーからすれば、仮にチームそのものが多くの利益を生まなくても、チームを所有することで他のビジネスに好影響があれば、それは重要な価値となる。

たとえば、2017年にヒューストン・ロケッツを買収したTilman Fertitta氏は、レストラン、ホテル、カジノ、その他エンターテインメント関連の企業を経営している。

ロケッツの本拠地にFertitta氏が経営するレストランを入れ、VIPをもてなすために同氏のホテル・エンターテインメント会社を活用すれば、そのレストランやホテルの評判が高まり、顧客が増えるかもしれない。

また、チームを所有することで新たな産業に参入することもできる。

たとえば、ここ数年、NFLやNBAのオーナーたちはeスポーツに投資をしている。スポーツイベントを運営するために必要な施設や人脈、ノウハウを持っているオーナーたちは、それらをeスポーツイベントのために提供することができる。それによってeスポーツイベントが成功を収めれば、オーナーたちの懐も潤う。

このように、チームを所有することで様々なビジネス機会が生まれるのだ。

前回の投稿では、チームが収益を拡大することで生まれる経済効果を説明したが、それ以外にもオーナーが利益を上げる手段はあるということである。

Sherman氏の場合、カンザスシティのビジネス界に広い人脈を持ち、信頼も厚い。彼が新オーナーとなり地元企業と協働すれば、これまでにはなかった経済活動が生まれるかもしれない。もとより起業家として一財をなした人物である。そのようなビジョンを持ってロイヤルズを買収した可能性は大いにある。

参考文献:
https://www.espn.com/esports/story/_/id/24203693/how-blizzard-convinced-robert-kraft-other-billionaires-buy-overwatch-league
https://eu.usatoday.com/story/sports/nba/2017/09/05/who-new-houston-rockets-owner-tilman-fertitta/633557001/