チケットビジネスの動向⑤ 複雑化するチケットビジネスの弊害

2018年、MLBは例年にない低調な観客動員を記録した。MLBは当初「記録的な悪天候のせい。天候が回復すれば観客動員も上向く」と楽観視していたが、夏に入って天候が安定しても観客数は思いのほか伸びなかった。

そこで現在、MLBのリーグ・チームは、観客動員に負の影響を与えていた可能性のある要因を洗い出しているのだが、その一つとして指摘されているのがチケットに関するものであった。

関係者によれば、消費者がチケットを買おうと思ったとき、そこにはチケットパッケージやサブスクリプション・チケットなど様々なオプションがあり、さらには、チームから直接買うか、セカンダリー・マーケットで買うかという選択肢もある。このプロセスがあまりに複雑で消費者が困惑しているのではないか、というのである。

オークランド・アスレチックスのDave Kaval氏は「我々はチケットをよりシンプルなものにするよう心掛けている」と言う。

また、MLBのパートナーであるStubHubのJill Krimmel氏は「我々は各チームとの連携をもっと密にしなくてはならない。たとえば、チームが広告メールを送った直後に我々が別の広告メールを送るようなことは顧客を混乱させてしまうので避けなくてはならない」と話す。

MLBは各チームが独自のチケット戦略を持っているが、この問題が続けば、リーグレベルで新たなルールが設けられる可能性もある。

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/10/08/Leagues-and-Governing-Bodies/MLB-Attendance.aspx

チケットビジネスの動向④ マジック・マネー

オーランド・マジックは、2016年から「マジック・マネー(Magic Money)」という仮想通貨を用いた独自のチケットサービスを提供している。

マジックのシーズンチケット所有者は、観戦に行かなかった試合のチケット料金を、チームのアプリ上でマジック・マネーに変換して”貯金”することができる。

マジックが行った調査によれば、同チームのシーズン・チケット保有者がシーズン・チケットの更新を止める最大の理由は、「買った分のチケットを使いきれないといやだから」というものであったという。マジック・マネーには、その不安感を取り除く狙いがある。

貯金したマジック・マネーは、座席のアップグレードや飲食物・グッズの購買に使用することができる。また、記者会見、サイン会、そしてロッカールームツアーといった特別なイベントに参加したり、ボールボーイとして試合の運営に携わったりするために使用することもできる。

さらに、マジック・マネーは、マジックのアプリを持っている家族や友人に譲渡することも可能である。したがって、たとえば、家族で貯めた分のマジック・マネーをすべてまとめて、息子の誕生日にサイン会に参加させてあげる、といったこともできる。

参考文献:
http://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2016/04/04/Franchises/Magic-Money.aspx

チケットビジネスの動向③ セカンダリー・マーケット

セカンダリー・マーケット(二次市場)とは、すでに購入されたチケットを再び売買する市場を指し、アメリカではTicket MasterやStubHub、SeatGeekといった企業がその運営を担っている。

もともとセカンダリー・マーケットは、スポーツリーグ・チームから完全に独立して運営されていた。しかし、あまりに多くの消費者がそこでチケットを購入するため、スポーツリーグ・チームがセカンダリー・マーケットの運営会社と業務提携を結ぶケースが増えている。

契約内容は様々だが、一般的には、売上の数%と顧客データがリーグ・チームに提供される。

象徴的なケースがある。2017年のワールドシリーズで戦ったロサンゼルス・ドジャースとヒューストン・アストロズは全く異なるチケット戦略を持っていた。

ドジャースは放任主義。セカンダリー・マーケットに介入せず、相当数いたダフ屋も黙認していた。一方、アストロズは、Eventellectというチケット会社と業務提携を結び、セカンダリー・マーケットを管理していた。

2017年ワールドシリーズのチケットは、セカンダリー・マーケット上で1100~1300ドルまで高騰した。その結果、ドジャースのホームゲームで、ダフ屋の儲けは計1500万ドルにも達したと伝えられている。しかし、そのうち1銭もドジャースには還元されない。

一方、アストロズのホームゲームに関しては、Eventellect社がセカンダリー・マーケットを管理していたため、その売り上げの一部がアストロズに共有されたと見られる。

そのワールドシリーズから数か月後の2018年2月、ドジャースは放任主義から方針転換。Eventellect社との業務提携を発表した。

拡大を続けるセカンダリー・マーケット。収入増加と顧客情報獲得のために、自らセカンダリー・マーケットを設立・運営するチームも現れている。

ボストン・レッドソックスは、Red Sox Replayを創設し2016年からサービスを提供している。Red Sox Replayでは、チケットの売り手がチケット価格を設定できるが、売り上げの10%が手数料としてレッドソックスに徴収される(シーズンチケット所有者の手数料は5%)。一方で、利用者はレッドソックスが管理するセカンダリー・マーケットで、より信頼性の高いサービスを受けることができる。2016年シーズンは、85,000以上のチケットがRed Sox Replayで売買された。

参考文献:
http://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2017/10/30/Events-and-Attractions/World-Series.aspx
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/02/12/Franchises/Dodgers-Eventellect.aspx
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2016/11/21/Franchises/Red-Sox-Replay.aspx

チケットビジネスの動向② サブスクリプション・チケット

ここ2~3年、北米スポーツ業界で注目を集めているのが、サブスクリプション・チケットである。顧客は、毎月(もしくは毎年)決まった金額を支払い、好きな時に好きなだけ試合を観戦することができる。

たとえば、オレゴン州立大学は、2016年からSQUADという月額制チケットサービスを提供している。このサービスでは、月額20ドルを払えば、同大学のスポーツをいつでも好きなだけ観戦することができる(人気のアメフト・バスケットボールの試合も含む)。

SQUADは、主に若い年代の卒業生をターゲットにしている。従来は、学生席チケットと寄付者用のボックス席チケットという2種類しかなかったが、オレゴン州立大学が行った調査によれば、そのどちらもターゲットのニーズは満たしていなかった。

同大学のLassiter氏は「Netflixにしても、携帯電話にしても、月額制でしょう。そのうえで、顧客がいつどのようにサービスを受けるか決定する。それが現代のライフスタイル。それなら、それをスポーツに応用してもいいでしょう」と話す。

プロスポーツでは、MLBの20チーム以上が「Ballpark Pass」というサブスクリプション・チケットを販売している。Ballpark Passは、毎月20~30ドルで基本的にいつでも観戦ができる(ただし、立見席)。

MLBの調査によれば、Ballpark Passは若い世代を中心に受け入れられ、 2017年にはリーグ全体で90万回使用された。

サブスクリプション・チケットが人気を得ている背景には、Netflixなどの定額制のエンターテインメントが消費者の間に浸透したことがあると考えられる。

参考文献:
http://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2016/05/23/Colleges/Oregon-State.aspx
http://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2017/06/26/Leagues-and-Governing-Bodies/Ballpark-Pass.aspx

チケットビジネスの動向① チケットビジネスのパラダイムシフト

ここ数年、北米スポーツ業界では、チケットビジネスが大きく変化している。これまでは、チケットというと、一般チケット(その試合のためだけの個人向けのチケット)、グループチケット、シーズンチケットくらいのバリエーションしかなかった。しかし、今日、消費者はよりユニークで柔軟性の高いチケットを求めている。

たとえば、シカゴ・カブスは8試合分・14試合分のチケット・パッケージを販売している。このチケット・パッケージを購入しておけば、自分が行きたい時に試合を観戦することができる。同僚と仕事終わりにふらっと試合観戦に行くということも可能である。これが「柔軟性の高いチケット」である。

これまでのシーズンチケットは、全ホームゲームのチケット・パッケージになっていることが多く、ファンに選択の余地が残されていなかった。その結果、「行かないと元が取れない」「せっかく買ったから行かないと」という不安感や義務感を抱くファンも多かった。

オーランド・マジックが行った調査によれば、シーズン・チケットの更新を止める最大の理由は、「買った分のチケットを使いきれないから」というものであったという。

顧客に選択の余地を残しておくこと。これがこれからのチケットビジネスの大きなテーマとなるだろう。

もう一つ、消費者の変化とともにチケットビジネスの変化に貢献しているのが、モバイル技術の進歩である。

NFLやNBAといったメジャーリーグのほとんどは、自前の携帯アプリを持っており、ファンはそのアプリ上でチケットを購入・ダウンロードできる。チケットを忘れたり失くしたりする心配がなくなり、ファンとしては使いやすい。また、チームにとっても「チケットを印刷・郵送するコストが省ける」「顧客データを収集できる」という大きな利点がある。

NFLの14チームは、2018年シーズンを前に、紙のチケットを完全に廃止し、すべてのチケットをモバイルチケットに移行したという。

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/08/13/Opinion/Giles.aspx
https://www.mlb.com/news/cubs-2018-ticket-packages-on-sale/c-262344664
http://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2016/04/04/Franchises/Magic-Money.aspx
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/09/03/Leagues-and-Governing-Bodies/NFL-tickets.aspx