バーチャル・マラソン

2018年11月4日、世界最大のマラソン大会であるニューヨークシティ・マラソンが開催された。同大会には、毎回5万人を超えるランナーが参加するが、抽選漏れで参加できないランナーも1万人以上存在するという。主催者からすれば、1万人以上の登録費をみすみす逃していることになる。

この抽選漏れしたランナーをいかに取り込むか。これが同大会を主催するNew York Road Runners(NYRR)の長年の課題であった。

そこでNYRRは今回、抽選漏れしたランナーを対象に「バーチャル・マラソン」なるイベントを実施した。これは、ランナーがフルマラソンを走り、その記録をStravaというアプリ上で申告するという、いたってシンプルなものである。11月1日から4日の間ならば、どの時間帯でも、世界のどこからでも、バーチャル・マラソンに参加できる。

バーチャル・マラソンの参加者は、いわば「勝手に」走るだけなので、沿道の歓声や町の雰囲気、セントラル・パークでゴールテープを切ったときの達成感など本大会で得られるような経験は得られない。しかしNYRRのMichael Capiraso氏は、マラソンランナーにとって最も重要なのは、自分の記録について語ることであり、バーチャル・マラソンはその機会を提供すると言う。

今回のニューヨークシティ・マラソンでは試験的に導入され、500人のランナーがバーチャル・マラソンに参加した。通常のレース参加費は255ドルであるが、バーチャル・マラソンの参加費は100ドルである。今回は、一定数のランナーを確保するために、バーチャル・マラソンの完走者には2019年のニューヨークシティ・マラソンの参加権が与えられた。

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/10/29/Events-and-Attractions/NYRR.aspx

Sports Studio

テレビ局がスポーツチームのドラマを撮影したいとき、あるいは、企業がスポーツチームのユニフォームをCMに使いたいとき、Sports Studio社に問い合わせることになる。

NFL、NBA、MLB、MLSといったリーグのパートナーであるSports Studio社は、様々な時代の様々なチームのユニフォームを製作・保管しており、撮影用に貸し出している。

Sports Studio社は、もともとカリフォルニア州ハリウッドに店を構えるスポーツ用品店であったが、サイドビジネスとして映画の撮影用にユニフォームを製作するようになり、80年代半ばにはユニフォームの貸し出しだけをするようになった。

80年代にヒットした「がんばれ!ベアーズ」、「ノース・ダラス40」といったスポーツ映画に出てくるユニフォームは同社が製作したものである。

現在NBCで放送されている人気ドラマシリーズ「This Is Us」にも、昔のユニフォームが登場する。1972年のNFLプレーオフで、ピッツバーグ・スティーラーズのフランコ・ハリスが見せたキャッチは、「Immaculate Reception(完璧なキャッチ)」と呼ばれ、NFL史上最も有名なプレーの1つである。

このプレーはその時代を象徴するとして「This Is Us」のあるエピソードで描かれているのだが、そのシーンを撮影するために当時のスティーラーズのユニフォームが必要であった。そして、それを可能にしたのがSports Studio社であった。「This Is Us」プロデューサーのJess Rosenthal氏は「当時をリアルに描くには、本物に近いものを使わなくてはいけない。その思いを共有する会社があることは非常にありがたい」と話す。

参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/10/08/Media/Sports-Studio.aspx

大記録に挑むオンラインゲーム

MLB Advacned Media制作の「Beat the Streak」は、1941年にヤンキースのジョー・ディマジオが打ち立てた不滅の大記録「56試合連続ヒット」に挑むオンラインゲームである。

ルールはいたって簡単。参加者は、MLB30球団の現役選手の中から、その日の試合でヒットを打ちそうな選手を1人選ぶ。もしその選手が、その日の試合で実際にヒットを打てば、1試合クリア。また次の日、選手を1人選び(前日と同じ選手でも可)、その選手がその日の試合でヒットを打てば、2試合クリア。これを繰り返し、57試合連続ヒットを達成できれば、ゲームクリアである。

このゲーム、プレーするのは無料だが、見事57試合連続ヒットをクリアすれば、なんと賞金560万ドルを獲得できる。

このゲームが登場してからこれまで17年が経過し、400万人以上がこのゲームに挑戦したが、達成者はいまだはゼロ。最長記録は、Robert Mosleyさんが2017年に記録した51試合である。

ルールが簡単で、登録費もゼロ、さらに成功すれば大金が手に入るため、MLBファンだけでなく、様々な人々の興味を引く。もともと野球に興味のなかった人も、連続ヒットを積み重ねていくうちに、MLB選手のことを学び、自分の選んだ選手を応援するようになる。そして自分の連続ヒットが途切れた時には、ジョー・ディマジオという大打者の偉大さを実感する。間口が広く、奥の深いゲームである。

参考文献:
https://www.mlb.com/news/beat-the-streak-leader-to-record-51-games/c-229995626
http://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2016/05/16/Leagues-and-Governing-Bodies/MLBAM-beat-the-streak.aspx

USLのグッズビジネス

アメリカサッカー二部リーグのUnited Soccer League(USL)は収益拡大とブランディング戦略の一環として、リーグ主導のグッズ制作・販売を始める。

これまでUSLでは、各クラブが独自にグッズビジネスを展開してきた。しかし、人材や予算の限られているUSLでは、ユニフォームやTシャツ、帽子といった基本的なグッズが、試合のときにのみ販売されるというケースが多かった。

USL社長のJake Edwards氏は「今回始めるリーグ主導のグッズビジネスでは、空港、スーパー、オンラインといったところまでグッズの流通を拡大します。また、各クラブと協同し、グッズの改良にも取り組みます。すごい可能性が広がっているはずです」と語る。

USLは早速、一部リーグのMLSのライセンシングパートナーであるThe Crystal Agencyと提携し、Select社とレプリカボール・ミニボールに関するライセンシング契約を結んだ。

USLは33クラブで構成されるが、そのうち14クラブが独立したクラブで、残りの19クラブはMLSクラブの下部クラブという位置づけである。今回のグッズビジネスに参加するのは14の独立クラブのみである。

参考文献:https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/09/10/Leagues-and-Governing-Bodies/USL.aspx

セブンイレブン、サーキット敷地内にオープン

2018年10月、セブンイレブンとテキサス・モーター・スピードウェイ(TMS)は業務提携(5年契約)を結んだ。今回の契約内容で興味深いのは、セブンイレブンがTMSの敷地内に店舗をオープンする点である。

既存のコンセッションやショップに飲食物等を提供するのではなく、わざわざ店舗を新設する必要がなぜあるのだろうか?

これにはTMSが提供するユニークなサービスが関係している。

TMSでは、主催するレースイベントの前週に、観客が敷地内でキャンプができるようになっている。利用客は、セキュリティが保証されたキャンピング・サイト内で、バーベキューなどを楽しみ、夜はキャンピングカーやテントで寝泊まりする。TMSのレーシング・コースは楕円形になっているが、その内側でキャンプをすることも可能である。

これまで利用客は、食料や物資が必要になる度に周辺のスーパーに買い出しに行かなくてはならなかった。キャンピングカーで来ている利用客にとって、一度セッティングしたキャンピングカーを再び動かすのは面倒である。今回セブンイレブンが新設されることで、必要なものはすべて施設内で調達できるようになる。

TMSのEddie Gossage氏は「以前、施設内に仮設スーパーを設置したことがあり、ファンからの評判がよかった。それ以来、そういったサービスを提供できるパートナーを探していた」と言う。

新店舗は、10月27日オープン。年中無休ではなく、TMSが主催する大きなイベントの前後にのみ営業予定である。

参考文献:https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/10/08/Marketing-and-Sponsorship/7Eleven.aspx

カレッジスポーツのSNSマーケティング

アメリカの大学スポーツチームは、強固で熱狂的なファンベースを持つことで知られているが、SNS上でも多くのフォロワーを抱えている。これまで多くのチームは、SNS上で試合の告知や結果速報などを行ってきたが、スポンサーの宣伝には活用してこなかった。それが変わりつつある。

2018年、大学スポーツ代理店大手のIMG Collegeは「Social+」というキャンペーンを始めた。このキャンペーンでは、大学スポーツチームのSNS上で、スポンサーのロゴやメッセージが掲載される。

たとえば、オハイオ州立大学のスポンサーである日産は、「Nissan USAはオハイオ州立大学の素晴らしいシーズンを祝福します#GoBucks」というメッセージをチームのTwitterアカウントを使って発表した。

アメリカの大学では、スポーツチームが大学のシンボルのような役割を果たすことが多く「Go Bucks」のような応援フレーズはスポーツの試合だけでなく、式典でのスピーチなどでもよく使われる。つまり、これは大学全体を鼓舞するフレーズ、大学関係者全体のアイデンティティを刺激するフレーズなのである。

日産には、そのフレーズを、チームのアカウントを使って伝えることで、フォロワーとより密な関係を構築しようという狙いがある。

一方で、SNSはチームとファンの交流の場であって、宣伝の場ではないと考えるファンもいる。IMG College社長のTim Pernetti氏は、Social+の広告はあえて目立たなくしていると言う。曰く、スポンサーのロゴや宣伝をさりげなく入れることが、チームとファンの関係性を傷つけない方法なのだそうだ。

Social+のスポンサーシップの価格は、チームのフォロワー数や「いいね」の数などによって決定される。通常、このスポンサーシップはそれ単体で売られるというよりは、オフィシャルスポンサーになった際の特典となることが多い。

Pernetti氏は、「すべてのファンがSNS上にいるわけではない。でもすべてのファンがスタジアムにいるわけでもない。スポンサーは、Social+を通じて、ファンとの繋がりを絶えず保つことができる」と語る。

参考文献:https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/09/24/Colleges/IMGCollege.aspx

ヒストリー・マーケティング

スポーツチームは、トロフィーやバナーなど様々な記念品を保有しているが、その多くは倉庫に眠っていたり、薄暗い博物館でホコリをかぶっていたりする。

現在、そういった記念品をスタジアムデザインに生かそうとする取り組みが盛んになりつつある。

ミシガン州立大学は、2000年に全米選手権を制したときのバスケットボールコートの一部分を壁にかけた。

「ほとんどの人はコートの近くに来る機会なんてないからね」と言うのは建築会社RossettiのMatt Taylor氏。「歴史的な記念品を一つの部屋に押し込んでホコリまみれにしとくのはもったいないでしょ」と話す。

ロサンゼルス・ドジャースのJanet Marie Smith氏は「私たちはファンにインスタ映えする場所を提供したいんだ。歴史的な記念品だからといって、そのすべてが厳かである必要はないんだよ」と言う。ドジャースは、それまで倉庫に保管されていた古いサイン色紙などをスタジアム内に展示した。

アリゾナ・ダイアモンドバックスは、チーム創設20周年に合わせて本拠地のChase Field内に展示スペースをオープンした。さまざまな記念品が展示される中、550個のサインボールの展示は特に目を引く。この展示のためにダイアモンドバックスは、2011年からサインボールを収集していたという。

これらの取り組みに共通しているのは、収益を第一目的としていない点である。ダイアモンドバックスの展示スペースも、それ自体は入場無料である。もちろん、記念品を展示したことで、ファンがチームにより強い愛着を感じたり、自撮り写真をソーシャルメディアに投稿したりすれば、それが間接的に観客動員に好影響を与えることはあるかもしれない。しかし、目的はあくまで観戦経験をよりユニークなものにすることである。

前出のRossetti社のJon Disbrowは「スタジアムを忘れられないものにしなくてはならない。歴史やレガシーに触れる機会を与えることは、その一つの方法だ」と語る。

参考文献:https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/09/10/Facilities/History.aspx

マイナーリーグとスマートスクリーン

2018年7月、マイナーリーグベースボール(MiLB)は、ISM Connectとの業務提携を発表した。ISM Connectは、今後1500万ドル以上をかけて、同社が提供しているスマートスクリーンをMiLBのスタジアムに設置する(およそ50のスタジアム、各スタジアムに10個前後のスマートスクリーンが設置される予定)。

スマートスクリーンには、液晶の下にカメラがついており、広告やハイライト映像を流すと同時に、そのスクリーンを見た観客の年齢、性別、人数、そしてスクリーンを見た時間といったデータを収集できる。

MiLBはそのデータをスポンサーシップ販売やマーケティング戦略に生かすことができる。また、タッチパネル式のスマートスクリーンもあり、それを生かした双方向的なイベントやゲームを導入することで、観戦の経験価値向上も図れる。

ISM ConnectのKent Heyman氏は「これまでMiLBチームがスポンサーの宣伝をしようと思ったら、外野に看板を1つ立てることで手一杯だった。スマートスクリーンの導入によって、これまでになかった様々なビジネスチャンスが生まれる」と語る。

メジャーリーグのチームと違い、MiLBのチームはスタッフの数が限られている。加えて、全国中継がないため、スポンサーシップ営業で使えるデータも限られている。スマートスクリーンはそういった欠点を補う能力がある。今後、MiLBがどのようにスマートスクリーンを活用するのか注目される。

参考文献: https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/07/09/Leagues-and-Governing-Bodies/MLB-ISN.aspx
https://ismconnect.com/minor-league-baseball-duplicate/

ロボットカメラとスポーツ中継

2018年8~9月に開催されたUS Openは、ESPNが映像制作を担当し、その映像がテレビとネット上で中継された。

同大会では16のコートが使用されるが、ESPNは今回初めて、そのすべてのコートで映像制作を行った。それを可能にしたのが、ロボットカメラの存在である。

従来は、カメラマンがコートに配置され、その他多くのスタッフが制作室でカメラマンへの指示や編集等を行ってきた。今回のUS Openでも、16コートのうち7コートではこの方法が採用された。

一方で、残りの9コートの映像は、Viboxと呼ばれるロボットカメラを活用した制作方法が用いられた。Viboxの場合、必要なスタッフは2名だけ。一人がリモコンでカメラを操作し、もう一人がプロデューサー兼ディレクターとして、カメラアングルの選択やリプレイの挿入などを行う。

Viboxは従来の方法に比べ、かなり効率的に映像制作ができ、しかも映像のクオリティは従来のものに全く劣らないという。

ESPNは、2018年4月にESPN+というネット中継チャンネルを設立し、現在同チャンネル用のコンテンツ充実を図っている。Viboxの導入はそれに大いに貢献しそうである。

参考文献:https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/09/03/Media/USOpen-production.aspx

ビクトリー冷蔵庫

クリーブランド・ブラウンズは弱小チームとして有名だ。2016年シーズンは1勝15敗。2017年シーズンはなんと0勝16敗であった。

スポーツ関連のおもしろ動画を配信しているThe Kickerは、「Hardest Jobs in Sports」というYouTubeシリーズの中で、ブラウンズのチアリーダーがスポーツ界で最も大変な仕事だと皮肉っている。

そんなブラウンズのスポンサーであるAnheuser-Busch InBev(ABI)は、それを逆手にとったユニークなキャンペーンを実施した。

その名も「Victory Fridge(ビクトリー冷蔵庫)」。

これは、同社の製品であるBud Lightがぎっしりと入った冷蔵庫なのだが、鍵がかかっており開けることができない。もしブラウンズが勝てば、ABIから信号が送られ、開く仕組みになっている。

ABIはこれをブラウンズの本拠地であるファーストエナジー・スタジアムと周辺のバーに設置し、2018年シーズンを迎えた。

そして迎えた第3戦。ブラウンズはニューヨーク・ジェッツを下し、2016年以来の勝利をあげた。ファンたちはまるで優勝を決めたかのように大騒ぎ。ビクトリー冷蔵庫の鍵が開くと、その盛り上がりは最高潮に達した。

試合後、ソーシャルメディア上には、ビクトリー冷蔵庫の鍵が開く様子や、ビクトリー冷蔵庫の前にできた長蛇の列など、ブラウンズファンの投稿した写真や映像があふれ、ソーシャルメディア上でもお祭り状態であった。

同社が目指す「ファンエンゲージメントを強めるユニークなスポンサーシップ」の成功例と言えるだろう。

参考文献:
https://www.brewbound.com/news/anheuser-buschs-victory-fridge-will-dispense-free-bud-light-cleveland-browns-win-first-game-2018-season