前回の投稿で解説した通り、今回のMLBロンドン遠征は、興行自体のコスト以上のコストが発生していた。したがって、この2試合で大きな利益を上げることは難しかっただろう。
しかし、今回の興行に関しては、利益を上げることは二の次。一番の目的は、MLBの人気をイギリス(ひいてはヨーロッパ)で拡大することであった。
そのため、普段の試合では見られない演出もあった。
たとえば、ヤンキースの勝利テーマ「New York, New York」は、普段は敵地では流れない。しかし、レッドソックスがホームチームという扱いであったロンドン遠征では、それが試合後に流れ、観戦価値向上に貢献した。
MLBの発表によれば、2試合のチケットの70%はイギリスで、20%はアメリカで購入されたという。しかし、現地で観戦したファンの感覚では、イギリス人とアメリカ人の割合は50%-50%だったという。イギリスでチケットを購入した人の多くがイギリス在住のアメリカ人だったのかもしれない。
ここから「イギリスでの人気拡大を狙うならもっとイギリス人ファンを増やさなければならない」という批評もできるかもしれないが、アメリカ人が多く観戦していたことの利点もあった。
たとえば、野球は素人だというイギリス人のMike Dunnさんは「私の席の前にも後ろにも多くのアメリカ人がいたよ」と言う。「みんな野球に詳しいから、ルールなどわからないことがあれば周りに聞けばいいという感じだったよ」。
人がスポーツファンになっていく過程では、そのスポーツのルールやファンとしての嗜みなどを他のファンから学ぶ。野球に関する知識や経験が豊富なアメリカ人ファンは、新規のイギリス人ファンにそういった情報を伝えることができるのである。
MLBは今後もヨーロッパでの興行を継続する。来年は、シカゴ・カブスとセントルイス・カージナルスがロンドンで公式戦を行い、その後はヨーロッパの他都市に遠征する可能性もあるという。
参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2019/06/24/Events-and-Attractions/MLB-London.aspx
https://www.nytimes.com/2019/06/30/sports/yankees-red-sox-london.html