従来アメリカでは、一部地域を除いてスポーツ賭博が禁止されてきた。しかし2018年5月、最高裁判所がそれを覆す判決を下した。
この判決はスポーツ業界に衝撃を与えたが、一方で新たなビジネスチャンスをつくりだそうと素早く動き出すスポーツ団体の柔軟性やスピード感も際立った。
では具体的に、スポーツ組織はどのように反応したのか?どのような新たなビジネスチャンスが生まれたのか?これから数回に渡って解説していきたい。今日は事の始まりの話。
そもそもアメリカでは、1992年に成立した「Professional and Amateur Sports Protection Act(PASPA)」という連邦法がスポーツ賭博を禁止してきた(ただし、ラスベガスのあるネバダ州など数州は例外的にスポーツ賭博が認められた)。
ところが2012年、当時ニュージャージー州知事であったChris Christie氏がこれを無視して同州でスポーツ賭博を認める法律を成立させた。これに対してNCAA、NBA、NFL、NHL、MLBといったスポーツ団体が「この法律はPASPA違反だ!」という訴えを起こした。ニュージャージー州の地方裁判所はNCAAらの主張を支持したが、Christie氏は判決を不服として上告。しかし、その後も下級裁判所はNCAAらを支持し続けた。
しかしChristie氏はめげない。2014年には別の法律を通して州内のスポーツ賭博を再び合法化しようとした。NCAAはこれに対しても訴訟を起こした。
このような、Christie氏とNCAAらの法廷での攻防はこれまで5回あり、いずれもNCAAらの立場が支持されてきた。
これだけを見るとChristie氏の完敗のように見える。ところが2017年、最高裁判所はChristie氏の主張を聴く機会を設けた。
この決定に関係者はざわついた。それは、最高裁判所が下級裁判所とは違う視点でChristie氏の主張を検討することを彼らが知っていたからである。
それまで下級裁判所で争われていたのは「ニュージャージー州の新法はPASPA違反か」という点。PASPAはスポーツ賭博を禁止しているのだから、それを合法化しようとする新法は当然違反になる。
一方で、Christie氏が法廷で主張してきたのは「PASPAはネバダ州におけるスポーツ賭博を認めている。なぜニュージャージー州で合法にしちゃいけないんだ!」というもの。つまり、PASPAという連邦法そのものに異議を唱えたのである。
Christie氏が下級裁判所で負け続けたのは、PASPAという連邦法の是非を問うような力が下級裁判所になかったから。ところが、最高裁判所は違う。PASPAの内容や必要性も検討される。先行きは一気に不透明になった。
Christie氏が最高裁判所まで突き進んだこと。これがすべての始まりであった。
参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2017/11/27/Law-and-Politics/Gambling.aspx
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2017/12/11/Law-and-Politics/Gambling.aspx
https://www.cnn.com/2017/12/04/politics/christie-scotus-sports-betting/index.html
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