2018年4月、ジャクソンビル・ジャガーズのオーナーShahid Khan氏は、8億ドルをかけてイングランドのサッカー協会からウェンブリースタジアムを買収した。
ロンドンにある同スタジアムは、プレミアリーグのどのチームも本拠地としては使用しておらず、代表チームの試合等が不定期に開催されている。
ジャガーズは2013年から毎年ロンドンで公式戦を開催しており、これを今後2020年まで続けるめどが立っている。
NFLは近年、ヨーロッパへの進出を積極的に行ってきた。特にロンドンでは、2007年から毎年公式戦を開催しており、これまで開催された21試合のうち、18試合はウェンブリースタジアムでの開催であった。
今回、ジャガーズが同スタジアムを買収したことで、NFLはロンドン遠征をより容易にできる。かと思いきや、NFLは個別でトッテナムFCと交渉。同チームがロンドン近郊に建てる新スタジアムの建設に2000億ドル投資する見返りとして、今後10年NFLの公式戦を同スタジアムで開催することで合意した。
この一連の動きをめぐっては、NFLとジャガーズの間に意見の対立があり、これが非常に興味深い。
まず、ジャガーズのHussain Naqi氏は「NFLはプレミアリーグの本拠地を使用すべきではない」と主張する。「プレミアリーグのファンは部族的で、トッテナムFC以外のクラブのサポーターが、NFLの試合を見るためにトッテナムFCの本拠地に行くことには抵抗があるはずだ」と主張する。
しかしNFLはこれに真っ向から反論する。NFLのMark Waller氏曰く、NFLは2015年にこのリスクについて調査済みであり、「ロンドンのNFLファンは、NFLを見るためにプレミアリーグの本拠地に行くことに何の抵抗もない」と言う。
最も、この意見の相違は表面的なもので、両者の対立の根本的な理由は、別にあるという見方もある。
ジャガーズはNFLの中でも成功しているチームとは言い難いが、先述した通り、ロンドンでの興行には最も積極的であり、同チームの収益の12%はロンドン遠征から生まれている。今回ジャガーズがウェンブリースタジアムを買収したのは、将来的なロンドンへの移転を検討しているからだという声もある。
ひょっとするとジャガーズは、NFLが10年以上かけて徐々に拡大してきたロンドンのファンベースを自チームのファンとして取り込み、さらには、NFLが長年使用してきたウェンブリースタジアムも買収することで、今後のNFLのロンドン興行にも一枚噛もうという魂胆だったのかもしれない。そして、NFLのトッテナムFCとの合意は、それに対抗する姿勢を表明したものなのかもしれない。
実際、Waller氏は「ジャガーズが仮にロンドンに移転しようとしても、NFLはトッテナムFCのスタジアムでの公式戦開催を中止するつもりはない」と断言している。
参考文献:
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/09/03/In-Depth/London.aspx
https://www.sportsbusinessdaily.com/Journal/Issues/2018/07/16/Leagues-and-Governing-Bodies/Wembley.aspx